相撲
俺は土俵に手をつくと、二度、三度と背を伸ばした。
対するは横綱・朝凪。会場は一杯。俺の名を呼ぶ声が多い。
両者1敗で迎えた千秋楽である。俺は相撲人生で初めてチラつく優勝の二文字に舞い上がったが、国技館に入り、支度し、花道を通り、朝凪の前に来たことで一気に現実に引き戻された。
横綱・朝凪の体は脂肪の下の筋肉がはっきりと分かるほど引き締められ、激しい稽古を今場所も積んできたことをはっきりと語る。時間いっぱいになるまでに心拍が上がり、朝凪の体を汗がひとりでに伝う。心技体の充実は疑うべくもない。
俺は今日、まだ朝凪の顔を、目を見ていない。
恐怖か?
「時間いっぱい!」
いや、期待だ。向かい合った朝凪の目は爛々と輝いていた。きっと、俺と同じに。
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