相撲ダービー

『角界の雄並び立ちました。仕切りです。』

俺は両国競士場に響く実況アナウンスを聞きながら、背に負った少年のことを思う。彼は322代目木村庄之助。

祖父は『最後の庄之助』と呼ばれる人物だ。絶対の自信を持った軍配を行司差し違えとされ、土俵上で切腹して果てた行司の中の行司。だがあまりに誇り高く凄惨な事件故に木村庄之助の名は取り潰しとなった。

彼は相撲協会、横綱審議委員会、日本競士連盟全てに祖父の誇りを再び見せつけんと、この相撲ダービーに乗り込んできた若き騎行司(ギョッジー)だ。

俺。俺は唯の力士。国技館で何度も優勝したが『走れない横綱』と笑われ、蔑まれ、見下された。

両手を広げる。不知火型だ。両膝のサポーターが軋む。背に軽いとはいえ人一人のせ、2000m走る。この膝で。面白くなってきた。

俺が口を歪めると、軍配が返った。

【Tomorrow's torikumi...】


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