【ライブレポ】早見沙織さんの音楽の軌跡(ストリーミングライブ “glimmer of hope”)

もしかしたら、配信ライブにはライブレポなど必要ないのかもしれない。
少なくともアーカイブで残っている一定期間は、わざわざ文字でなくとも、映像と音で何度も何度も充分に楽しめるからだ。

何てことをぶつくさ呟きながら、それでも今筆を走らせているのは、確実に進化している早見沙織さんの音楽の軌跡を残したいからだ。

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ふとBGMが鳴りやんで、画面が暗く切り替わる。
冒頭から、早見さんの柔らかい歌声が降り注ぐ。

黒いドレスに身を包んだ早見さんと、会場の円形に合わせるかのように円形に並んだバンドメンバー。
真ん丸なピアスも可愛らしい。

1曲目は『yoso』だ。
お互いを見合うようなステージングだからだろうか。早見さんとバンドメンバーの呼吸が自然と合う。
それはあくまで「合わせよう」としているのではなく、肩ひじ張らずとも充分に互いを理解しあっているかのようだ。

なお「glimmer of hope」は、早見さんとしては珍しく一部同期音が入ったライブとなった。
とはいえ、『yoso』でも原曲にあるコーラスはカットされていたりと、早見さんの声質が活きるような最低限の楽器数。1つ1つの音がより身近に、温かく感じられる演奏だ。

次に続くのは『メトロナイト』。
客席のコーラスを煽るのが定番のこの曲だが、たまには静かに聴き入るのも悪くない。
ベース、ピアノ、ギター、ドラムとそれぞれのソロが入る。
間奏部分が思いっきりバラードっぽく、大きく2拍子を波打ったのが印象的。

水の泡のような背景で流れ出す『水槽』。ライブでは久々の演奏だ。
クルクルとカメラが回り、早見さんとバンドメンバーの表情が映る。
サビが16ビートになった軽快なバンドアレンジだが、不思議と4年前の原曲よりも大人っぽく聴こえる。「今の早見沙織」が歌う『水槽』だ。

そして最新ミニアルバムから『瀬戸際』。
自信で作詞作曲を手掛けている『瀬戸際』はまさに「今の早見沙織」らしい楽曲だが、1stアルバムに収録された渡辺翔さん提供の2曲に挟まれても自然な流れに聴こえる。

シンセサイザーの音色がピアノのジャジーな音色へと入れ変わり、『ESCORT』へ。
今回は、よりゴーストノートを意識した、高いリズム感が求められるアレンジ。
ウッドベースがオシャレだ。
少し赤い靄がかかったような映像が、雰囲気に色を添える。

原曲より少し長めの前奏で、『mist』が始まる。
人気曲を出し惜しみしないセットリストだ。
背景に歌詞が映し出される。
『ESCORT』の温かい色合いから一転して、モノクロの映像に早見さんの影がゆらゆらと揺れる。

続く『ザラメ』は、オレンジ色の照明。
カントリー調の曲調によく似合う。
2番になると、まるで「ザラメ道」のような道を歩み始める早見さん。
複数の照明に照らされた早見さんの影が重なり合う。
光に向かって還っていくかのような演出が美しい。

その後、グランドピアノの前に座って最初のMCが入る。
「最近は直接皆さんとお会いする機会がなくて寂しかったですけれども、こうして生配信でお届けできる機会が嬉しいです」と話す。

初めて弾き語りで歌うという、『ブルーアワーに祈りを』。
壮大な原曲の雰囲気に比べて、言葉がダイレクトに胸に響く。
「孤独に胸を抱きながら」「でもそうだ 隣に仲間がいるから」という歌詞が、今の私たちの心に寄り添ってくれるようだ。

続く『祝福』も、ピアノ弾き語りでの演奏。
こちらも「きっと明日が来れば」と、少し暗い中でも未来を歌う曲だ。
後ろに光る照明が、月明かりのように温かい。

指弾きのギターで始まるのは、『やさしい希望(Bossa Nova)』だ。
記念すべき1stシングルであり、ボサノババージョンがミニアルバムに収録された。
ずっと変わらない早見さんの優しさを再発見し、心が温かく包まれる。

意外性のある曲調で、発売時から話題になった『Asakasa5』。
赤坂5丁目を散歩をしたくなるような、シャッフルのリズム。
早見さんもまるでその場を歩くように足を動かす。
何気ない1日の景色も、コロナ禍だからこそ見つけられた有り難さかもしれない。

各楽器のソロが入り、バンドメンバー紹介へ。
こうしてゆっくりとバンドメンバーの顔を見れるのも配信ライブならではの良さだ。

花びらがたくさんついたかのような薄ピンク色の衣装に身を包んで、早見さんが再び舞台に現れる。
『LET'S TRY AGAIN』。シンプルな歌詞がここまで胸に刺さるのは、早見さんの表現力の高さならではだろう。

『Jewelry』の前向きな歌詞が、追うように続く。
キラキラハッピーソングと表現されるこの曲も、コロナ禍を経て新たな「パワー」を帯びた曲になる。
ドレスに合わせた花のような映像が、また華やかさを添える。

「早見沙織の音楽が、ちょっとでも明日の力になれば、ちょっとでも皆さんのもとを照らすささやかな優しい光になれば、ちょっとでも救いになれば……そんな歌を私はこれからも歌っていきたいなと改めて2020年に思いました」と話す早見さん。

木陰の映像とともに流れ出す、『garden』。
自由に動くスラップベースがかっこいい。
「強くなれる」ような気がしてくる。

そしてライブ最後を締めるのは、今回のライブタイトルにもなっている『glimmer』。
小さな照明が無数に、星空のようにステージを照らす。
ラスサビのワンフレーズは、アカペラで。
「言葉」を楽しめたライブを締め括るのに、うってつけのアレンジだろう。

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何度も何度も聴き返して、ベッドの中でまた反芻して、そして思う。
「早見さんの音楽が、何だか変わった気がする」と。

今年ミニアルバム『GARDEN』が発売されたとき、私は早見さんが「自分らしさの鍵を拾ったよう」だと記事に書いた。

このときはまだ“勘”に過ぎなかったけれど、今回の配信ライブを経て確信をした。
早見さんの音楽は、変わった。
たぶん「伝えたいこと」ができたのだ。
だからこそ、言葉1つ1つがよりメッセージ性を持つようになった。
ダイレクトに胸を打つようになった。

ライブ序盤の人気曲満載のセトリもそれはそれでファン待望ではあったが、何度も聴き返してみると『ブルーアワーに祈りを』以降の説得力が殊に圧巻である。

美しくて、可憐で、儚くて、大人びていて、少女のようでーーそんなファンの想うイメージの中で静かに歌ってきた妖精さんが、突如スッと立ち上がって意志を持って歌い始めた。
そんな“強さ”があるライブだったと思う。

「大丈夫 信じることがパワー」。
今までは笑顔で聴いてきたはずの歌詞で、今回何人の人が泣いただろう?

「早見沙織の音楽が、ちょっとでも明日の力になれば」。
2度目のMCで話したこと。
おそらくコロナ禍を経て、早見さんが辿り着いた1つの「伝えたいこと」なのかもしれない。

アーティストデビュー5周年イヤー。
コロナがなければ、ツアーも実施していたし、もっとリリースもあっただろう。

運が悪かった?
いや、そんなことはない。運を溜めているだけだ。
新しい早見沙織へと進化を遂げつつある姿を見ていると、そう思う。
次なるヒットへの軌跡を、着実に歩んでいるのだ。きっと。

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