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2023 旅日記 北海道編 3

相変わらず暑さの引かない、北海道道東のとある町。
あと3ヶ月もしたら雪が降るくせに、どうしてこうも暑いのか。

今日は午前中、髪を切りに出かけた。
もう1週間もすれば、ベトナム・カンボジアプロジェクトが始まる。
そこではドライヤーなんてほぼ使えないだろうから、髪がすぐ乾くように軽くしてもらった。
サラサラでいい感じ。

午後からは、帰省中の目標2つ目である「先輩が紹介してくれたホテルのレポートを書く」に取り組んでみようと思う。

経緯を軽く説明しておこう。
島修行を終えた私は、東京に一泊してから北海道へ帰ることにした。
島に遊びに来た先輩にその話をしたところ、宿泊業で働く先輩は、

「ビジネスホテルに一泊するんじゃ勉強にならない」

と言って、空港から割とアクセスの良いブティックホテルを紹介してくれたのだった。
私も観光を学ぶ学生だから、先輩の言うことにしたがってそのホテルに泊まることにした。

先輩は当日、ホテルの近くまで来てくれて食事を共にしたのだが私は、勉強って何をどう学べばいいんだろう...と、このホテルを私に教えた意図を理解しかねていた。

私はホテルの感想を話して、意見を聞こうとしたけれど、思ったような話は聞けなかった。
どうやら、また自分で考えさせようとしている。

やっぱり、できる人怖い。私は考える。
単に気が乗らなかっただけの可能性もあるが、意味があると思って受け取ることにした。

先輩とは、しばらく会うことは無いだろう。
感想をまとめてLINEで送っても、こいつになにか教えてやろうという気になるものだろうか。

それなら、私のなるべく全力を尽くしたレポートを一つ作ってみようと思った。
帰省したらしばらく暇だし。
これを見れば、私が泊まったホテルについておおよそ理解出来るよう、調べ尽くしたレポートを作る。

相手に行動を求めるのではなくて、まず相手が、必要だと感じる得る情報を先に提供してみよう。
所感について交流するための、私なりのひと手間。

宿泊業に従事する人は、ホテルのどんな情報を知りたいだろうか。
単価か、客室の様子か。
ホテルを構成する様々な要素を考えてみる。
生意気ながらも、レポートはホテル業界に売るものを作るという前提で作成することにした。

そして、私がこのレポートを作成したのにはもうひとつ意図があった。

それは、全力を出して挫折しようということ。

観光を学んでいても、現場での経験が少なく、宿泊業においてほぼ素人な私に、ろくなレポートなんてかけるはずがない。
そもそも、先輩とは元々のスペック、経験や視野の広さまで、何もかもが違いすぎるのだ。
だからこそ、全力を出して書いてみて、ボロクソに言われて挫折してみようと思った。
鼻で笑われたっていい。

まずはこのホテルを運営する会社について。
上場しているか?資本金は?
意外と調べると出てくる。
物を調べる練習にもなりそうだ。

書いておきたい項目をある程度絞ったら、そこに的を絞ってさらに検索をかけてみる。
ホテルについて。館内について。客室情報。

正直レポートの内容に、見出し一つつけるのにも言葉選びに迷う。
言語化するという難しさ。

私は、不器用でポンコツだ。
たった2枚半のレポートを書き上げるだけで、とても時間がかかってしまった。
先輩にファイルを送り、返事を待つ。
少し怖い気持ち。なんて言われるのだろうか。

だけど、レポートを作ってみて、分析してみるという事が面白く感じた。
こういうの、私結構好きなのかも。
表面的な世界の奥にある広がりが見えたような気持ち。

この時、私はお気に入りの漫画のストーリーを思い出した。少し紹介させて欲しい。

「ガラスの仮面/美内すずえ」

平凡な家に生まれた少女マヤが、とあるきっかけで演劇の才能に目覚め、「紅天女」という大役の後継者を目指し、成長していく物語。

少年漫画を好む私が手をつけた、数少ない少女漫画の一つ。
物語に登場する台本の魅力的な言葉選びが、私はとても好きだった。

マヤはとあるオーディションの一次審査を受ける。ライバルたちは大手の劇団員ばかり。
一次審査の内容は、セリフを覚えて好きなように演じるだけ。課題名は「毒」。男を憎む女が、料理に毒を入れようとする際のセリフ。

ライバルたちは、簡単な課題だと喜ぶ。殺意に悲しみや憎しみを交えて演じれば良い。
そんな中マヤだけは「難しいわ...」と青ざめる。ライバルたちは振り返った。この程度の演技が難しいっていうの?

「毒を入れようとしている"わたし"ってどんな人物なのかしら。殺そうとしている"あのひと"は?家族なのか、友人なのか...それとも、もっと別な関係なの?一体どんな場所にいるのかしら。毒は一体どんな容器に入っているの?」

必死に考えるマヤ。一つの事柄や存在。
不確かなことに対して、ありったけの想像力を働かせる。
この物語を読んだ私は、もしかしたら"分析しようって思うこと"自体が、難しいことなのかもしれないと感じた。
なぜなら、"わかっていない"という事実に気づくことは難しいから。

見えない部分があることに気がつくこと。
知らないという事実を知ること。
これがとても難しい。
でもこれに気づかないと、分析を始められないない気がする。
気づくためには、何が必要なんだろう?

疑問がたくさん浮かんだところで、とりあえず今日の私のお勉強はおしまい。
目標の一つだったレポート作成も無事に完了しました。

最後に興味がある方、良ければ「毒」を読んでみてくれませんか?
みなさんは何を思い浮かべて、どんなふうに演じるでしょうか。
想像力を働かせることが出来たなら、とてもロマンチックですね。
それではみなさん、おやすみなさい。

課題① 「毒」

わたしが この毒を手に いれたことを 知る者は 誰もいない
誰の運命を どうすることも すべて思いの まま
あのひと これから先の あのひとの 人生 運命 命
それがすべて わたしのこの 手の中にある
もう 思い通りに なんてさせや しないわ
裏切り ごうまん あなたは いつだって 身勝手に 生きてきた
わたしの心を ずたずたに 切りさいて 血がふきでる のをあなたは 楽しんでいる
笑って らっしゃい これはわたしの 切り札よ
ポーカー フェイス よそおって あなたの前で いつも通りの 表情をみせて あげる
これが 体にはいり 消化されるに したがって しだいに毒が まわって
4時間後には 心臓マヒと 同じ症状で 死ぬ
毒は体に 残らない
これをほんの ひとたらし ふたたらし
あなたは それをほんの ひと口 ふた口
それで すべてが 終わる
わたしは 苦しみの 鎖から とき放たれる
わたしの 切り札

ガラスの仮面(22巻)/美内すずえ

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