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2023 旅日記 北海道編 5

今日は曇り。涼しくて少し過ごしやすい。
愛犬も窓際で涼んでいる。
昼過ぎからは、さっと雨が降りさらに過ごしやすい気温になった。
ここにいると、もう夏は終わった気分。

前回、前々回と、ビジネス本や教育の本を続けて読んできた。
二日間、理解するのに頭をひねらせて疲れた。だから今日は小説を読もうとおもう。

本屋さんでは、まず好きな作家さんの棚を探しに行く。
気になる本を手に取り、裏に書いてあるあらすじを眺める。
どれにしようか。
個人的に、表紙のデザインは結構重視する。
本を読む自分を客観的に想像して、しっくりくるものがいい、というくだらないこだわりがある。
どうせブックカバーをつけるのだけれど。

この本屋さんでは、12種類の中から好きなブックカバーの色を選べる。
今日選んだのは、深い緑。

「木洩れ日に泳ぐ魚/恩田陸」

※この先小説の若干のネタバレがあります。

私は恩田陸の作品が好き。
作品を全部読んだことがある訳では無いけれど、ちいさめな私の本棚のなか、一番多く並ぶ名前だった。

彼女の作品の、風景の描写が大好き。
普段何気なく眺めている風景も、その一瞬を切り取って言葉にすると、とても情緒的に感じる。

同じく恩田陸による、「麦の海に沈む果実」を読んだ時は、風景や状況が細かく描写されているページに付箋を貼ったりしたものだった。

どの描写も、どこか心当たりを感じるほど馴染みがある。
まるでその風景が、私の記憶のどこかにあるみたいに引っ張り出される。

そんな日常的で見覚えのある風景描写に続き、ずっしりした暗い闇が突如として現れる。
この緩急に、私はとんでもなく引き込まれてしまうのだった。

この小説は、この先別々の道を歩み出す男女が、アパートの一室で最後の一晩を共に過ごすお話。

初めは、荷造りが終わって物がほとんどない部屋で二人夜を過ごそうとしている、という状況しか分からない。
そこから少しづつ明らかになっていく二人の名前、関係、過去。

中でも、印象的だったシーン。
二人は感情を表に出さず、取り繕うことや演技することを得意としているのだが、とある真実が発覚し、彼女は笑い転げる。
そこに、「黙れよ」怒鳴りつけた男。

よほど怖い声を出していたのだろう。
彼女はピタリと笑い止むと、真顔になって座り直し、怯えたように僕を見た。
「何怒っているの」
いや、怒っているのは彼女だった。

木洩れ日に泳ぐ魚/恩田陸

怯えている表情と、怒りを抱えた表情。
もしかしたら、紙一重なのかもしれない。
実際、彼女は怯えてはいなかっただろう。
彼女はこう続ける。

「なんであなたが怒るの。結果は何も変わらないでしょう。茶番劇を演じていたのはあたしで、あなたじゃない。あなたはいつも安全地帯にいて、何も見ようとしない。あたしの顔色を窺って、びくびくどこかに逃げ出すだけ。(中略)
あなたには、一生探り当てることなんかできなかったでしょう。怒っていいのはあたしよ。あなたじゃない。」

木洩れ日に泳ぐ魚/恩田陸

読書を終え、私の頭に映像としてくっきりと残っているのは、何故かこのシーンだった。
物語も終盤に差しかかるこの場面で、彼女が自身の感情を露わにする。
多くの会話場面は他愛なく短いセリフであるのに対し、ここまで感情を言葉で発する場面は他になかったと思う。

怒りを含んだ冷たい視線で彼を見つめる、美しい女性が頭に浮び上がる。
きっと、私の理想が反映されている映像なのだろう。

慣れ親しんだ相手と言えど、激昂した男性相手に、冷静な言葉を返せるだろうか。
彼女は怖いと、思わなかったのだろうか。
彼女の目には、激昂する男ではなく、別の何かが捉えられていたのかもしれない。

私の、強い女性に対する憧れ。
それを見たような気がして、頭から離れないのだと思う。

私は進学のために北海道を出て、インターンやプロジェクトに参加することで、「強くなったね。」と言われることも多くなった。

実質一人っ子のような私は、この田舎でのんびり育った。だけどいつだって強い女性に憧れを持っていた。

今回帰省して、母親も私に

「強くなって帰ってきた。」

と言った。私は、嬉しかった。
だけれど、母親の言葉の響きと表情から、それは彼女にとって心から嬉しいことでは無いことが感じられた。

何が正しいのかは、正直よくわからない。
私の憧れは、間違っていたのだろうか?

小説、そして母親との会話が、これから先の理想の自分を考え直すきっかけとなった気がした。

今日もここまで付き合ってくれた方、ありがとうございます。
明日からはまた、お勉強の本を読みます。

だけど、ベトナム・カンボジアプロジェクトが近づいてて、すこし時間がないかも。
早起きして頑張ります。
それでは皆さん、おやすみなさい。

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