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『うんこと死体の復権』を鑑賞

『うんこと死体の復権』


強烈なタイトルだがドキュメンタリーとしては道徳的なプログラムの作りだ。
全部で3章のプログラムとなっていて、そこにそれぞれ違う研究活動をしている3名が主人公だ。
その研究がうんこや死体にまつわることだ。
うんこや死体が土に帰るとやがて分解されていき、それらを食べていく虫たちの大事な栄養源となる。
そしてその虫たちを食べる動物たちがいて、またその動物たちを人間たちが食べていく。
そうした自然の循環に焦点を当て、うんこや死体に魅せられてしまった3人が熱っぽく語り、日々の実験、研究を嬉々として話すドキュメンタリー。

特に第1章の糞土師を名乗る伊沢正名さんが凄い。うんこの研究に目覚め、自ら野糞を自由に出来る土地を購入している。お尻を拭ける葉っぱを嬉々として語り「紙より拭きやすいでしょ」と笑顔で語る伊沢氏は健全ではあるが、どこか不思議な変態といった趣さえある。うんこ研究が白熱しすぎて離婚してしまう。「どっちを取るかと言われればうんこでしょ」といちいち強烈なパンチラインがどんどん出てくる。

何度も何度も野糞をするシーンが出てくる。尻を木で隠そうとする画角が面白い。うんこが出ると嬉々と「いいうんこが出ました」と語る。その研究に魅せられた伊沢氏以外の方々も容赦なくその野糞のムーブメントに参加していく。

カメラも出したてホヤホヤのうんこにズームアップしていく。何故か神々しく見える。
やや猟奇的な光景をとても健全そうな姿・形でやっていることに強烈なおかしみがある。

トイレでうんこをすればやがて焼却されて二酸化炭素になる。しかし本来あるべき姿は野糞をして、土に栄養をあたえるべきなのかもしれない。

そんなことを観客に思わせながらもやはり伊沢氏そのものが面白い。
「21世紀になってから、トイレでうんこをしたのは14回です」
これまたいいパンチラインだ。

野糞をして、そこにマーキングをし、それを掘り起こしてはどのように分解されているか、どのような虫がそこにいるのかを研究している。

この映画の魅力は何より研究に魅せられた3人が生き生きとしていることだ。
価値がないとされるものに、価値を見出す視点を見つけようとする3人。
本来あるべき自然の循環に見出しつつ、その謎の豊かさは人柄に出ているように感じられた。

お金に代表される価値があるとされるものに、躍起になっていく人たちが人相がどこか悪く感じられていくのに対して、うんこや死体を研究している彼らはどこかで朗らかな顔をされている。

価値がないとされるものに、価値があると信じれていて、かつ信じれる根拠となる研究や論法も生み出している。
僕はこれを観て、人生とは自分にしか見出せない価値を見つけられた時にその人生がより豊かになるようになっていくのではないかと感じた。

この映画はうんこを題材にしている以上、絶対にポピュラーな存在にならないだろうが、それでも価値観を覆してくれる、あるいは価値観を付加してくれるという点においてキラキラと輝いている。うんこや死体を扱いながら、映画の存在感は逆転して存在しているようだ。

必見だと思う。

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