みんな昔を求めてる 「エモい」という言葉の正体

鬼滅の刃、全裸監督、エヴァ、ジョーカーなど、近年で一世を風靡するような映像作品はどれも昔をテーマにしていることが多い(それ以上に音や色の使い方などの影響が強いようにも思えるが今回は割愛)。

私はこれらの作品に対して率直に「エモい」といった感情が芽生えた。

「エモい」とは、英語の「emotional」が由来の、「感情が動かされた状態」を表す若者言葉。(Wikipediaより)

私が考えるに、恐らく「エモい」といった言葉は、戻れない過去に対する切なさみたいなものが、根底にあるのだと思う。チェキや写ルンですが流行ったり、TikTokで昔の楽曲が使われることなどを例に挙げるとわかりやすいだろうか。

そして、若者の間でこのような"感情が流行る"ことには、科学の発展・インターネットの普及・景気の後退が影響していると考える。


1.科学の発展

ビジネスの世界では、SF作品がよく引き合いに出されるが、映像作品としては廃れたと感じる日本人は少なくない。当時の人々が見るSF作品のような、純粋なワクワクを私たちが感じるには事実が多すぎる。アダムスキーによる空飛ぶ円盤や、地球空洞説も今となってはフィクションだ。もちろん宇宙人がいないと断言する人は少ないだろう。こうしたどっちつかずの冷めた目線がSFをつまらなくさせる。

またSFという科学を楽しむためには、学問という壁があり文系の人間からすると、その敷居は高いと感じられる。だから初めから理解することを放棄する。簡単に言うとSFは難しい(難しいと思い込んでるだけなのかも知れないが)ので、他の作品を見ようとする。


2.インターネットの普及

インターネットの普及により、人々は「人口の多さ」と、「才能の差」を理解する。こうして多分今の若い人たちは、優れることよりも異なることを目指そうとする。しかもそれは自分の内面にあるもので、曝け出し、守ることによって確立すると思っている。「個性を尊重しろ」といった風潮もここからだろう。

それ自体悪いものだとは思わないし、多様性が認められることによって救われる人もいるだろう。そんなマクロの話ではなく、見つかるはずのない本当の自分を、自分の内面から探そうとするのは、簡単に他人を見ることができるインターネット社会からの疲れによるところが大きいだろう。


3.景気後退

また、経済不況も要素としては大きいだろう。'90年からの失われた30年と呼ばれる時代を生きている我々には、恐らくかつて高度成長期のような活気はない。政治に対しての不満もあるが、一人ではどうすることもできないことを理解している。終身雇用の崩壊、ジョブ型雇用へのシフトなど、変化の激しい時代になると言われるが、正直情報過多で飽き飽きしている。

経済が不況になると、新興宗教が流行るといった傾向があるが、科学によって神の存在を理解できなくなった日本人は、新たな信仰を、陰謀論に見出しているようにも見える(ここら辺は話が逸れるので、別の機会に書こうと思う)。


推察

以上の観点から、今の人々は、「未来への期待より、変化の無い過去への安心感」を求める気持ちが強いのではないだろうか。もう少し踏み込むと、戻れない過去という切なさが、今の自分の寂しさの感情と重なり合うのだろう。経済の波が上下するように、人間の心も前後に傾く。循環があるしどちらが良いとも言えない。私は別にこのnoteで問題提起をしたいわけではない。ただ人が好むものを分析し、知りたかっただけだ。まとめに移ろう。

まとめ

人間は決して過去には戻れない(少なくとも私が生きている間にソレが実現することはないだろう)。こうしたノスタルジックで不可逆性の感じさせられるものに対し、人は「エモい」といった感情を抱く。アナログの時計がなくならないのもここにあるだろう。

映像作品は、情報だけではなく、そうした情緒を残すことができる。小説や過去の出来事が映像作品として世に出る流れは、とても素敵なことと思える。私は一映像クリエイターとしてこの情緒を残していくことを使命とし、精進してまいりたい。

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