消失!(ネタバレ感想)

著者:中西智明

出版:講談社文庫

本書は前提知識が何もない状態で読んだ方が面白いので、気になった人はこんな文書読んでないで、実物を読んでください。

評判には聞いていましたが、ようやく本書を読むことができたので感想を。まずストーリーは、冒頭で3つの事件が描かれるのですが、そのうち2つは一見不可能に見えるものです。死体も犯人も消える事件が3つ起きるのですから、それは豪華と言っても過言ではないでしょう。特に1つ目の事件は密室に逃げ込んだ犯人が目撃者の前から消えるので不可能性が強調されていて良いですね。そして、3つ目の事件では、探偵事務所の近所のブティックで行方不明事件が起きて探偵が解決を目指します。その過程で3つの事件が溶け合っていくという構成になっています。一見無関係な3つの事件がどんな関係性で繋がっていくのかというミッシングリンクものとなっております。ミッシングリンクと言えば、「ABC殺人事件」、「メビウスの殺人」、「九尾の猫」などが想起されますが、本書もミッシングリンクというジャンルの歴史に名を刻む一冊なのではないでしょうか。

本書には3つのサプライズがあって、まさに豪華絢爛。1つ目のサプライズは被害者が「犬」だということ。2つ目のサプライズは3つの事件と思われていた、事件が1つの事件であったこと。すなわち被害者(被害犬)が1匹であったこと。3つ目のサプライズは真犯人が探偵であったこと。

まず、1つ目のサプライズについてですが、これは予想できませんでした。まさか犬だとは。完全に想定外の事件ですが、確かにどこを見ても「人」だと確定させる情報はないんですよね。確かに、2つ目の事件で子供が行方不明になってるというのに警察が全然動かないからそこだけ違和感あったんです。そりゃ犬がいなくなったなら警察は動かないよね。

次に2つ目のサプライズですが、これは本当に素晴らしい、驚きました。本書で一番好きなポイントです。要は3つの事件があって3人(匹)の被害者がいたと思わされていたのですが、それぞれ関係者が異なるだけの一つの事件であり、被害を受けたのも犬1匹でしたという。これはミッシングリンクの一つの解として歴史に残るものなのでは。作者の方も後書きで書いていますが、類似のものはないのではないでしょうか。「被害者」ではなく「被害犬」というの設定が上手く生かされています。「被害者」であったのであれば、なかなか三重生活を送るというのは難しそうですよね。ミッシングリンクなどなかったというミッシングリンクの解決策、本当に素晴らしいです。

3つ目のサプライズとしては、探偵が犯人であったことでしょう。これはあってもなくてもどっちでもいいかなって感じもするんですが、探偵の手のひらで踊らされていたと考えると描写があった方が良いのかもしれません。探偵が犯人であり最後に新たな事件を連想させる不穏な雰囲気を醸し出すことで、印象を残すことに一役買っている効果がありますよね。

この1作しか著書のない作者なのですが、出版してくれたことに感謝しかありません。多分私が今より知識のない10代の頃に本書を読んでいたら、かなりのサプライズだったんでしょうね。表紙に秘密が隠されているそうなのですが、どうしても目を上手く使えずわかりませんでした。誰か何が書いてあったのか教えてください。

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