九孔の罠(ネタバレ感想)

著者:三津田信三

出版社:角川文庫

前作の感想を書いてからかなり時間が経過してしまいました。中々仕事が忙しくて、どうも感想をまとめる時間もだらだらしてしまい、反省。

ようやく三津田信三さんの死相学探偵シリーズの最新作が読めました。この本はめちゃくちゃ大きな仕掛けが施されているのですが、僕は完全に騙されてしまいました。この本単品で読んでも全く面白くないと思うので、素直に1巻から読んでください。

ストーリーとしては、ダークマター研究所という怪しげな国家機関があり、超能力者の子供たちがトレーニングと生活をしています。しかし、研究所のリストラ計画が持ち上がり、誰かがメンバーの中から切り捨てられるかもしれないという状況の中で、ある一人の超能力者が命の危険を感じます。そこで探偵弦矢俊一郎に相談がなされ、研究所に捜査に赴くという流れです。今回使われる呪術は九孔の穴というものでして、ターゲットを絞って、相手に恐怖を植え付ける、その後もう一度近づけば相手を殺害できるというものです。呪術を発動させても途中で止めることができるので、自己も対象に含めることで捜査を撹乱できるという、術者にとって非常に都合の良いものとなっております。笑

この本に仕掛けられた壮大なトリック、それはこの事件自体が黒衣の女を捕らえるための「偽物」であるということです。犯人と目されていた翔太朗は本当に犯人でしたが、自分が呪術で人を殺していると思い込まされておりました。ここは犯人らしい人間が犯人というヴァンダインを彷彿とさせる展開ですね。ダメダメな犯人である翔太朗が犯人である故に、黒衣の女が接触を図るであろうというところに目をつけた壮大な作戦です。

実際に呪術により殺害されたと思わされた、紗紅螺と看優は死んではおらず、所謂仕掛け人的な立場なのでした。つまり俊一郎、翔太朗、黒衣の女以外は全員がグルになって事件が起きたことを演じているような構造だったのです。従って、本当の真相(変な言葉ですが)から考えれば、「探偵・犯人・共犯者が被害者」で「それ以外の登場人物が犯人」という異様な構造なのでした。まあ、確かに翔太朗が犯人では興醒めなのでかなり捻られた展開があるのだろうなと思っていましたが、全然ダメでした。

これはかなり騙されてしまう人が多いと思うんですよね。なんと言っても、紗紅螺と3人目の被害者である雛狐の内面を描写する章があるのですが、これが読者への騙しにおいて強烈な印象を与えています。ただ、再読してみると確かに俊一郎に優しい言葉を投げかけていたり、実は死なないことが分かっていることが示唆されているような点も目に付くんですよね。あと、看優の幻視能力が全体の騙しに一役買っているのですが、途中から話を追うばかりで、超能力者の集団であることを失念しておりました。紗紅螺の死相だけ異なっている点も完全に見落としていました。僕が優れた読者じゃないからなのかもしれませんが。

黒衣の女の正体が1作目に登場した内藤紗綾香というのもサプライズ。読み返してみると黒衣の女が登場し始めたのは、2巻からだったんですねえ。そういうことかと。あと小林少年が登場したのも驚きでした。今後、彼はどんな役回りを与えられるのでしょうか。黒術師の正体も気になりますが、これは俊一郎の過去と繋がりが強いことを推測させるような終わり方で閉められておりました。次巻でこのシリーズは終わってしまうようなので、心待ちにしています。

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