非在(ネタバレ)感想

著者:鳥飼否宇

出版:角川文庫

前回の感想を書いてからかなり時間が経過してしまいましたが、前作「中空」の続編、いわゆる観察者シリーズと呼ばれているシリーズの第2作です。

あらすじとしては、大学生が人魚や仙人が存在するという伝説の島に行くのですが、そこでの殺人事件が起き、助けを求めることを示すフロッピーディスクが発見され、探偵役である鳶山、相棒の猫田、同じく仲間の高階と共に探しに向かうところが前半。その後、島を探し上陸。惨劇の真相を明らかにする部分が後半となっております。

まず前半はフロッピーの記述を読むというパートが多くを占めるのですが、こういう手記形式のものって非常に楽しいことが多いですよね。パッと思いついたのは、三津田信三さんの「山魔の如き嗤うもの」とか。手記の形式の場合、探偵がいないので推理というより純粋に不可思議や恐怖が強調されていて、それが後半で探偵の推理によって合理的に解釈されるという落差が魅力的なのだと思います。仙人に会ったとか、人魚を見たとか、朱雀を見たとかという記述が手記の中に出てくるのですが、正体はなんなのかなって気になりますよね。(まあ仙人がなんなのかとか、朱雀がなんなのかって真相は若干拍子抜けですが。)

後半、探偵チームが島に上陸してからは遺骨を発見し、今まで手記としてしか書かれていなかった惨劇が事実であったことが判明していきます。どの骨が誰の骨なのか、つまり、被害者は手記の中の誰で、加害者は手記の中の誰なのかということを考えていくこととなります。また、骨が不自然に焦げている点。それが一体何を意図したものなのかというのは興味を引く謎でした。骨が不自然に入れ替えられているので、誰かが何かを意図した行為であることは明らかなのですが、それを考えていくのは面白かったです。死体の身元をわからなくする場合、大概は入れ替わりが目的な気がするので、分かる人には真相がすぐ分かってしまうかもしれません。シチュエーション的に極限状態に至った人間がある意味人間としての大罪を犯してしまうというのも、想像しやすいでしょう。

真相としては、読者が手記で部長と認識させられていたのは国政でしたが、実は年度が変わっており出射なのでした。(国政は島に行っていなかった。)部長(出射)が自分の犯行を隠匿するために自分の死を偽造しようとしたところ、大乗寺が船長や須賀田仙人の遺体を火炙りで食べいたため骨が焦げており、骨の入れ替えのために大乗寺の骨は燃やされたのでした。その上で部長は仙人になりすましていました。探偵チームが温泉で発見した死体は生き延びていた陳で、死因は事故。ちなみに、部長が自分が犯してしまったと認識していた事件(大乗寺殺し)は、陳の犯行であることが示唆されています。手記の段階で登場人物が誤認させられることがメインのトリックの一つでしょう。手記の記述方法が変わったので、何かあるんだろうなと思いましたが、まあ何も見抜けませんでした。

最後の最後で、作中で解決されなかった謎と放置されていた人について、明言はされていないものの、真相が示されていることが素敵です。あの人はずっと島にいて、これからもいるということか。

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