使用人探偵シズカ(ネタバレ感想)

著者:月原渉

出版:新潮文庫

初めて読んだシリーズです。

見立て殺人がメインに置かれている作品なので、かなりワクワクしながら読みました。見立て殺人といえば、獄門島、ポケットにライ麦を、僧正殺人事件など枚挙に遑がありませんが、基本的にどれも派手な殺害方法ですが、犯人の狂気を想像させられるので無条件に興奮させられてしまいますよね。

見立て殺人の何が興奮させられるか申し上げますと、まず恐怖感ですよね。筋書き殺人と言っても構わないかと思うのですが、いくつか殺人があってもまだ何かあるのか、誰か殺されるのかというドキドキ。見立て殺人はオカルトや伝承と相性が良いので、物語性も高まります。そもそも、見立て殺人をするなんてすごく手間がかかることなのにそれを敢えてやることに合理的な理由が与えられる場面は美しいです。

見立て殺人といえば、どうやって見立てを成立させるかという点もありますが、なぜ見立てをするのかという点が重要になると思います。主には犯行の順序を誤認させることだったり、証拠の隠滅だったりしますよね。

さて本作はどうであったかと言うと、かなり見立てを行う理屈が難しかったです。いまいち理解できたようなできなかったような。僕は頭が足りなくてかなり混乱してしまいました。敢えて見立て殺人という「死体が目立ち殺人があったことが容易に分かる方法」言い換えれば「死体を隠せない方法」を選択することで、その後安置してある死体が消えた際に「トリックとして死体が利用された」と気づかせる。では死体を利用した結果、犯人として浮かび上がるのは誰か。それは、被害者の中でも唯一死体が確認されていない氷神である。そう結論付けさせ、誘導するために見立て殺人を利用したという理解で良いのでしょうか。

真相としては死んだと思っていた氷神は生きており犯人で、さらにその正体は久住正隆その人でした。犯人の意図としては、氷神が真犯人という結論に推理を誘導させることで、成り済まし相手の氷神に汚名を着せるということなのでした。死んだと見せかけた方法は、第一と第二の殺人の遺体を利用したトリックでなるほどという感じ。まあ、なんとなく残された人間側に犯人はいないだろうなと思いましたが、本当は久住正隆だというところまでは予測できませんでした。氷神であるはずの犯人が作者の久住正隆意外知らないであろう見立ての内容を全て把握していたこと、シズカの縊られている絵が犯人によって書かれたことから、それを描けるのは氷神=久住正隆、つまり作者であるという理屈。芸術家は制作過程を人に見せないでしょというシズカの反論は少し弱い気がしますが、好きな証明ではあります。

復讐相手そのものではなく、その血族への攻撃というのもなかなか珍しい動機ではないでしょうか。

見立ての理由にはあまりピンと来ませんでしたが、登場人物が一人ずつ減っていき、「絵」の枚数から考えて一人余ることになるという論理が展開される場面や、この中に犯人がいるということで疑心暗鬼になっていく主人公などなんとなくリラ荘殺人事件の終盤を思い出しました。こういう緊張感はいいですよね。

あとシズカという探偵を好きになれるかどうかが本作を好きになるかどうかの分かれ道なのかもしれません。見立ての論理がもっと分かりやすいと良かったなと思います。でも、見立て殺人という難しいテーマに新しい価値をもたらそうとした作者の方の意気込みが分かるので是非一読していただければと思います。

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