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16. 涙

泣いた日を覚えてる?
声を出してその痛みを感じた日。
幼い頃は小さな石一つで転んだ。
犬に追いかけられて転んだ。
そうして、擦りむいた膝が痛くて泣いた。
やがて、大きくなって転ぶ痛みさえ忘れた。
でもふっと思い出す時がある。
紙で切った指先とか虫刺されの薬に染みた傷とか
そんな小さな痛みで。

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あれは運動会のお昼。
転んだ膝小僧が痛かった。
「あら、痛いでしょ?」
そう言ってくれたのはおばあちゃん。
「うん」
「赤チンぬらな」
「それっくらいたいした事ないわよ」
そう言ったのはお母さん。
「赤チンないから、ばんそうこう、つける?」
「うん」
そう言ってばんそうこうをくれた。
「あとで、赤チンぬっとかれ」
それだけなのに、なぜか嬉しかった。


※赤チン=消毒液 ※ぬっとかれ=ぬっておきなさい



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30の遠い記憶 目次

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