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猫の恋の頃4

   【 自傷 】

 痛みを感じなくなるほど、心が麻痺する。
 何もいらない。何も欲しくない。
 ただ、何もかも忘れたいだけ。


 夜、どうしようもなくなって、遠くにいる友達に携帯メールした。
『辞めたい。辞められない。無断欠勤でもしようかな』そんな風に書いた。
『なかなか判ってもらえないのは仕方ない。伝わるように頑張って。
 無断欠勤は信用を無くすから、これからの為にもやめた方がいいよ~』
 と、返ってきた。

 これからの為?
 これからの為に止めた方がいいの?
 今は?今、伝えられない。伝わらないのに?

 友達が正論なのは判ってる。
 判ってる!!!
 だけど、欲しかったのはそんな答えじゃなくて。
 そうじゃなくて!!
 欲しい答えが返って来なかったから、苛立つなんて可笑しい。
 判ってるのに。

 苛立ちが止まらなかった。

 止まらない。


 手にしていたのはカッターだった。

 切った。

 切って、切って……
 血が滲んだ。
 ああ、切れるものなんだと、ぼんやり思った。

 残ったのは罪悪感だった。



 次の日の朝、頭の中はグルグルだった。
 いつも指導者さんと一緒に会社に行っている、その車の中。

『違法性はない』
――道徳上は良くない――

『平気』
――痛い――

『誰にもわかりはしない』
――誰かにばれてしまったら――

『死にはしない』
――死ぬかもしれない――

『切りたい』
――切りたくない――

『楽だろう?』
――……楽?――

 ガンガンと頭が痛んだ。

 指導者さんが隣で「頭、痛いの?」と聞いた。
 私は首を振る。
「大丈夫?」
 会社に着く前にもう一度指導者さんが聞いた。
「大丈夫です」
 私は答えた。


 私は何をしているんだろう?


 夜、母が私の腕の傷に気がついたのか、顔色を変えたような気がした。
 でも私はそれに気が付かないフリをして、テレビを見ながら笑った。


 インターネットは繋がった。
 終わるかもしれないと思った。
 止められるかもと思った。
 ……。
 違った。
 誰にも言えなかった。
 たとえそれがどんなに離れてる相手でも言えなかった。
 その場所も息苦しい場所に変わる。


 それは加速して、私をむしばみ始めた。






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