2話 初対面
会長様と始めて会ったのは、東京だった。
専門学校から東京へ、研修旅行があった。
私が東京へ行くと伝えると、会長様が東京でオフ会を開催してくれた。
主催は会長様。
東京では数回のオフ会が開催されていた。
私は前回のオフ会しか経験がない。
学校から行くと言っても、行くだけで東京に着いた後は自由行動。
朝食を取った後は、午後9時までにホテルに戻って点呼があるだけだった。
ホテルでの点呼時間に間に合えば、何をしていてもいい。
オフ会に参加する時間は十分にあった。
初めての東京。
メールの中の会長様がどんな人なのかと、ワクワクしていた。
集合場所には早めについた。早すぎて誰も来てはいない。
近くに人待ちの人がいたけれども、ここはよく集合場所になるとも聞いていたので、別だろうと思った。
その人は先に待ち人が来たらしく、楽しそうにどこかに行ってしまった。
リュックの中の課題を取り出す。手直しした方がいいのは分かってが、ギリギリでしか完成しなかった。
いろいろなものが足りない。最低限の形の課題。
眺めていても仕方がないので、再びリュックの中に押し込む。
たくさんの人が行き交っている。
田舎暮らしの私には、気分が悪くなりそうだった。
本でも持ってくるべきだったとちょっと後悔しながらも、人の流れを眺める。
それしか、やる事がない。
やることはないが、頭の中は別世界に飛んでしまう。課題の事、帰りの事、etc.
目の前の事が見えているのか、いないのか、自分でもよく分からない。
そんな状態でも、数メートル先に会報を持っている人をみつけた。
こちらへとやってくる……と、言う事は会長様だと思った。
何かを言わなければ……何を?
言葉が浮かばないままにジッとその人を見つめる。
視線が合った。
「……こんにちは」
高くも低くもない声がその人から発せられる。
「……。こんにちは」
オウム返しに言葉を返したが、その後に続く言葉が見つからない。
「えっと。ノアちゃん?」
向こうが先に察してくれた。
「……はい」
たぶん、声は小さくなっていたと思う。頷きと共に私は答えた。
そんな感じの最初の出会いは……どっち?だった。
見た目が中性的。声も高くも低くもない。
いや。男性にしては高い部類に入ると思う。と、いう事は女性。
他の人たちも、それほど待たずにやってきた。
ほとんどが会員様たちだったので、会報で見たことのある名前が自己紹介で発せられる。
私は頭の中で、名前と作品を繋ぎ合わせる作業が始まった。
そんな感じで始まったオフ会。予定していた場所へと移動する。
なぜだか、会長様は延々と私の傍で喋ってくれる。
かなり後になってから知ったが、私があまりにも喋らなかった為に喋ってくれていたのだとか。
「あの時は、一番喋った。次の日は喉が痛くなった」
とまで言われた。
でも、私に楽しんでもらおうと喋りまくってくれたのだと。
今は感謝しかない。
そんな感じで、会長様のお喋りで楽しく過ごしたオフ会だった。
研修旅行は散々だったけれども、それは内緒の話。
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