見出し画像

なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか?その2

生活のすべてを「男役」「娘役」に捧げる

劇団では「男役十年」といわれます。「桃栗三年柿八年」ではないですが、宝塚の男役を演じられるようになるにはそれくらいかかるということです。初舞台を踏み、一年が過ぎると各組に配属され、ようやく役らしい役がつきはじめますが、作品によっては下級生は男役にも娘役にもなることがあります。
新人公演で一言のセリフをもらったりしながら、少しずつ役付きになっていきますが、「普段は普通の女の子のような生活をしながら稽古場に入るとすぐに男役になれる」、そんな器用なことができるわけがありません。
日常の生活から男役はパンツスタイル、娘役はスカートやワンピーススタイルと、それぞれのムードをきちんと保った服装や持ち物で生活をします。

稽古着も同じです。稽古場から男役は「格好良い!」、娘役は「綺麗! かわいい!」といわれるような服装を心掛けています。
ですから、ほとんどの男役が私服でもスカートを持っていないのです。

娘役に転向したてのころの私は、スカートを一着も持っていなくて困りました。普段着も稽古着もすっかり娘役仕様に変更するのはすごく大変だったことを思い出します。
タイトスカートをはいて一歩踏みだしたとたん「バリッ!」とスカートが破れたことがありました。一歩が大き過ぎたのですね。普段から男役の歩き方をしていましたので……。自分でも苦笑いでした。

「なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか?」桐生のぼる著書より 
                            つづく・・・