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「小さな負け」が心を育てる

重松清さん「かあちゃん」539ページ、5時間ほどで読了。とにかく泣けた。多分私、全ての章で1回以上は泣いていた気がする。


読んだ瞬間、広がる親子の世界

ドラマの撮影現場でよくある「3・2・1、スタート!」のように、ページをめくった瞬間、物語の世界に引き込まれる。ほんまに、重松さんが言っているんか、登場人物が言っているんか、ちょっと混乱したぐらい。

この本にはさまざまな「かあちゃん」が登場する。20〜30代、そして夫の事故死を機に25年以上笑顔を封印し続けている還暦間近のかあちゃん。子どもに弱さを見せまいとする母。それに気づきつつ、何もできない自分にもがく子どもたちの心理描写がすさまじい。

分かるなぁ。子どもって親が思うよりもずっと、親の心に敏感。一方で母になった私には、「子どもにはつらい思いをさせたくない」と思う母側の気持ちも痛いほど分かる。

1章ずつ、違う人の目線で描かれているのだけれど、心の動きがとにかくリアルで情景が目に浮かぶ。ああ、私も中学生のころ、思ってもいないのに母親に酷い言葉を浴びせたなぁ…とか。悪いなと思うのに収集つかなくて、モヤモヤぐるぐる、「ごめん」のひと言が言えなくて苦しんだっけ。

子どもを産んで「負け」を知った女性

5章「トライ」の主人公は、育休から復帰したばかりの女性教諭。

秒単位で仕事に追われる。いつ保育園から電話がかかってくるだろうとスマホの着信、事務員さんからの呼び出しに怯える。

私も長男が1歳になった2週間後に復帰した。雨の中、電車で送り届け、ようやく学校に着いて約10分後、保育園から「お迎えお願いします」と電話がかかってきたこともある。

年休・看休はいつもカツカツ。有休日数を夫婦でシェアできればいいのに…と何度思ったことか。笑

物語の女性教諭も同じだった。思いどおりにいかない、なんで熱を出すの、なんでこんなに忙しいの!!そんな彼女が、いわゆる"成功者”とされる教師の講演で投げかけた質問に涙腺崩壊。

負けたことのない教師って、ほんとうに生徒にとっていい教師なんでしょうか。

教師のいちばん大事な役目は、生徒に勝ち方を教えるんじゃなくて、負けてもくじけない気持ちを教えることなんじゃないですか。

だとすれば、負けたことのある教師のほうが、生徒には必要なんじゃないですか。

中略

わたしはこの子が生まれてから、小さな負けを何度も繰り返してます。思いどおりにならないことばかりだし、この子がいなければ仕事をもっとがんばれるのにって思うし、やつあたりもしちゃうし、それでよけい自分の弱さが嫌になります。

でも、そのおかげで、生徒の弱さに対して優しくなれた気もしています。

「かあちゃん」より抜粋

「小さな負け」
思い当たる節がありすぎる。思いどおりにいかないと、ついイライラしてしまう。なんで私ばっかり…って、自分で選んだ道なのに思ってしまうことも多々。

けれど、「負け」を経験した人間だから、立ち上がり方を知っているんだ。目には見えないけれど、着実に心が磨かれている。

さぁ、今日も小さく負けよう。






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