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劇場版うたプリに救われた1人のオタクの話

これは去年の夏、劇場版うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEキングダムに命を救われた♀オタクの実話である。

大学を卒業して就職し数ヶ月がたったある日、目が覚めると手足をベットに拘束されていた。

自分で言うのもなんだが、大学時代は優秀だったと思う。テストの成績も授業態度も良かったし(きっと)国家資格も学年2位の好成績で取得した。有名なところ職場に就職もできて、新しい生活は順風満帆なんだろうと勝手に思い込んでいた。

しかし実際に働いてみると大学で勉強してきたことは一切役に立たなかった。知識だけあっても身体は思うように動かないのだ。何故こんなこともできないのかと自分が嫌になった。

そんなある日、突然どこかから声が聞こえた。

お前はクズだ さっさと仕事やめろ      お前なんか生きてる価値ないんだよ

周りには誰もいないのに鳴り止まない声。怖くなり自分の頭を殴ったがそれでも鳴り止まない。殴って殴って殴り続けた。その後からの記憶はない。

後から聞いた話だが、上司が止めても自分を傷つけることをやめず、話も通じず、どうしようもなくなって救急搬送されてそのまま入院になったそうだ。鎮静剤を打っても効き目が切れると自分を殴りつけるため、看護師さんが総出で私を押さえつけて手足をベットにくくりつけたという。

知らないパジャマ、手袋をはめてベッドの柵に繋がった両手。時刻は始業時間を過ぎていた。

ただただ絶望しかなかった。

看護師さんやドクターが来て私に何かを話しているが、聞こえてくるのは自分を罵倒する言葉ばかりだった。家族の声が、友達の声が、上司の声が、そして知らない人の声が頭の中で鳴り止まななかった。頭を叩きたいが手は拘束されていて動かない。ベッドで横になり泣くことしかできなかった。

数日が経ち頭を殴らなくなったため拘束は外れたが今度はご飯が食べられない。頭の中に鳴り響く

死ね、クズ、役立たず

の言葉が私を支配した。  

死にたいと強く思った。

思考回路が停止していた為ただ単にご飯を食べなければ死ねると思った。 ただここは病院である。そんなことできるわけがない。しばらく点滴と薬漬けの生活始まった。

薬が効いたのか症状も少しおさまってきたが副作用で頭が働かず何もできなかった。私が入院したのはいわゆる閉鎖病棟である。病院内を自由に出歩くことも許されず携帯もドクターの許可がないと使えなかった。もちろん使用許可がおりるはずもなく腕にチューブが繋がったまま、ぼーっとする毎日が続いた。

そんなある日の消灯時間後、点滴棒を引きずりながら食堂に向かった。入院した病院には部屋にテレビはなく、食堂に大きなテレビがあるだけだった。消灯後1時間はテレビを観ても良いことになっていた。寝付けなかった私は頭が働かないから内容は分からないけど暇はつぶせるだろうと思い、テレビの目の前の椅子に座りリモコンを握った。電源をつけた瞬間だった。

18人のプリンスさまが目の前に現れたのだ。

それがST☆RISH、QUARTET NIGHT、そしてHE★VENSだった。

うたのプリンスさまっ♪というコンテンツは知っていたし大好きだった。 上京する頃にアニメの3期がやり始めることを知り、その前にサブスクで1期2期を一気見した。3期と4期はリアルタイムで観ていた。アイドルたちが成長していく姿、頑張る姿、何よりもキラキラした夢をみさせてくれる彼らに夢中になっていった。 6thライブにも現地参戦した。彼らが魅せてくれたライブのあの場所は紛れもなくプリンスドームだった。

絶望の淵に立っていた私の前に私が大好きな彼らは現れてくれた。              番組の間にある映画のCM、たった15秒ほどだったと思う。キラキラした彼らと共に映ったのは  絶賛上映中 の文字だった。

ああ、彼らに会わなければ。彼らをこの目で観るまでは死ねないな。

死にたいという気持ちが嘘のようになくなった。どうやってここを出て劇場に行くことができるかだけを考えた。生きないといけない、生きて彼らに声援を送らないといけないという使命感がみるみる身体に行き渡った。

次の日から少しずつ自分の口でご飯を食べ始めた。味はしなかったが出来る限り胃に詰め込んだ。薬も点滴投与だったのを自主的に自分の口から飲むようになった。

少しずつ、少しずつだが毎日を必死に生きた。 彼らに会いたい、ただそれだけが原動力だった。

入院して1ヶ月以上が経ったある日、ドクターから自宅療養に切り替えましょうという言葉が出た。つまりは退院ということだった。 姉が迎えに来て荷物を抱えバスに乗って帰路に着いた。バスの中でスマホを握りしめ、1番近い映画館を探した。

あった、かろうじてまだやっている。

すぐに親友に連絡を取った。二つ返事で行くと言ってくれた。朝8時45分からの応援上映を2枚取った。

ペンライトをもって親友と現地集合した。席に座ると心臓が飛び出そうなぐらい胸が高まっているのがわかった。ああ、はじまる。

マジLOVEキングダムの名に相応しい王国がそこにはあった。

周りのプリンセス、プリンスたちは常連なのだろう。完璧な掛け声や合いの手が周りから聞こえてきた。そんな素敵な空間の中で私は無我夢中でペンライトを振った。必死で色を変えながら彼らの名前を叫んだ。

全てが終わった後、私の目からは涙が溢れていた。病院のベッドで流した苦痛の涙なんかじゃない、世界一幸福な涙だった。

生きててよかった。

心からそう思った。

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