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漫画とは感情を描くこと。感情は行為で浮かぶもの。

先日、漫画家こしのりょう先生の #コルクラボ #漫画倶楽部 に参加してきた。漫画を「描くことを楽しむ」を目的に、こしの先生と一緒に、自分の漫画を描くイベントだ。やさしく、おもしろく、基本のところから教えてくれるので、ほとんど初めて漫画を描くようなぼくでも、最後には自分で漫画を描くことができる。

今回の漫画倶楽部のテーマは「嬉しかったこと」を漫画にすることだった。実際の原稿用紙に、ひとつの絵を画いてもいいし、コマ割りして描いてもいい。自由に、その時の感情を描くというものだ。

こしの先生は、テーマを発表したとき、こんなことを言っていた。

漫画とは、感情を描くもの。
自分の感情を描くことで、あなたオリジナルの漫画になる。
そして、共感もされる。

その感情を描くとき、その感じたときの状況や情景、その感情に至った経緯や理由を一緒に描くと、より漫画っぽく、伝わりやすくなるとも言っていた。

自分の体験や感情を心に浮かべ、絵と言葉で表現し、ひとつの漫画にしていく。こしの先生にコマ割を相談しながら、現実から離れ、集中し、没頭し、いい感じ!と思ったり、頭の中の映像が紙に表現できないなと思ったり、気がつくと2時間経ってしまっていた。

そのときに描いた漫画がこれ。

ぼくは中学生の頃、サッカー部に所属していた。毎日毎日サッカーをしていた。そのサッカー部は非常に強く、大会では毎回、県で1位になる。レギュラーになれず、自分と人と比べ、卑屈になっていた3年生の頃だ。顧問の先生に左足でボールをうまく扱えないことを指摘され、まずはそこがうまくならないとポジションは難しいと言われたのだ。

ぼくは、悔しさを感じた。一方で、それを改善するともしかしたら試合に出れるのかも…と暗闇の中の一筋の光のようにも感じた。まだ上手くなれる。ここを練習すればきっと。漠然としたなかに、ひとつ目標ができたのだろう。ぼくはそれから、居残り練習をはじめ、毎日、壁に向かって、左足でボールを蹴りつづけた。思い通りに動かないから、右足ってどういう動きなんだろうとそれをトレースするように動かしてみたり、力の入れ方を意識してみたり、試行錯誤でボールを蹴りつづけた。

ある大会の決勝だった。中学3年の秋だったと思う。芝生のグラウンド。そのときは珍しく、父も母も観に来ていた。クラスメイトも何人かいたかもしれない。ぼくはベンチで試合を見ていた。

チームはすでに、何点かゴールを決めていて、「勝ち」が見えていた。後半の途中、ぼくは監督に呼ばれた。緊張と、勝てそうだから自由にプレーできそうだという予感と、親が見ている恥ずかしさの中、ぼくは試合に出た。

そこからはあまり覚えていない。次の瞬間には、ぼくはシュートを打っていて、しばらくすると審判のホイッスルが鳴った。「左足のシュート!」と笑顔で駆け寄るチームメイトがそう言ったとき、ぼくは左足でシュートを打ち、それがゴールになったことを認識した。

じぶんでこれを克服したいと思い練習し、その成果でゴールを決めた。その経験は、ぼくにとって忘れがたい成功体験となった。

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こしの先生には、簡単に「こんなことがあってそれを描きたい」といったところ、「いいね~。じゃあさ…」とコマ割り、展開、言葉を並べ、こんな感じならどうだろう?と教えてくれた。

どこを削るか、どう並べるか、どこを大きく表現するか、どんな言葉を入れるか…ひとつの感情を漫画にするのに、感情が伝わるように、頭の中の経験や体験を紙の上に表現していく。単純な時系列の再現ではなく、本人に、読者に、その感情が立ち上がるようなかたちにつくりかえる。

だから、ぼくの漫画は、「悔しい」⇒「練習」⇒「試合に出る」⇒「ゴールの瞬間」⇒「時間は少し戻って、蹴った直後」⇒「みんなで喜ぶ」という流れになったのだ。

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実際に漫画を描いてみて、感情というのは、その感情単体で存在しているものではなく、その瞬間だけに生じるものではないと気がついた。思考や行為、経験を経て、感じるものなのだ。

感情は心の動きで、心の動きは身体の行為とつながっている。感情は、そこに至る行為や思考や言葉があって浮かびあがるものなのだろう。

だから、「感情を描く」というのは、「嬉しい顔」を描くだけでなく、「嬉しい顔」のまわりを描くことで、「嬉しい顔」として認識され、共感される。

漫画を読み、じぶんの心の中を参照して、あのときの経験の、においとか、音とか、映像が思い出され、浮かび上がり、おなじような感情を追体験する。「嬉しい」という言葉になる以前の「感情」を経験する。

「嬉しかったこと」を漫画にしてみて、感情の共感や漫画のパワーをあらためて実感した。


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