マイベストのCDをもらったときの話 #勝手にコルクラボ

昨日、「アンダーグラフ」のアコースティックライブに行ってきた。高校、大学時代、特によく聞いていたバンドだ。懐かしい曲に、記憶もよみがえる。
そのせいだろうか。ふと、”マイベスト”と書かれたCDをもらったときのことを思い出した。

中学生か高校生の頃だ。ぼくはあるクラスメイトに惹かれていた。彼は、色白で背が高く、誰にでもフラットで、落ち着きがある人だった。
なにか他の人と違う雰囲気を持っていた。
周りとの共通点を探すぼくとは違う、ぶれない自信があるように見えていた。

休み時間になると、ぼくは、よく彼に話しかけた。
友だちになりたいと思っていた。

あるとき、ぼくは彼との共通点をつくりたくて、どんな音楽を聴いているのか聞いた。
彼は、うれしそうに洋楽のバンドや曲をいろいろ教えてくれた。

ぼくは、まったくわからなかった。名前も良さも。当時、両親が車の中で流すサザンかユーミンか、テレビで流れてくる音楽くらいしか音楽は聴いたことがなかった。

だけど、知らないとは言えず、どこかで聞いたことがあるようなバンド名が話題に出ると、「いいよね」と知ったかぶりをした。

すると彼は、「今度、お気に入りのやつをCDに焼いて持ってくるよ」と笑った。

翌日、おもてに"マイベスト"と細いマジックペンで書かれた、CDを持ってきてくれた。
「これ聞いてみて。話していた○○や○○の曲が入っているから」

ぼくは、「嬉しい、ありがとう」と言い、それを持ち帰った。

だけど、ぼくはそのCDをすぐに聞くことができなかった。
まったく知らないバンドの曲だ。洋楽だから歌詞もわからない。正直に言うと、彼のおすすめの言葉に、心動かされてはいなかった。
その場で話をすること、話をつなげること、共通点を見つけることのみに関心があったのだ。

それに"マイベスト"は重かった。透明のプラスチックケースの蓋は硬く感じた。

「まだ聞けていないんだよね」と翌日話し、その翌日も、その翌日も、嘘をついているような日々が続いた。

ある日、とうとう聞かないといけないと決心し、CDを聞いた。

まったくわからなかった。
有名で、よい曲がたくさん入っていたのだろう。ただ、音楽の聴き方も知らず、なじみのないリズムと、理解できない歌詞が続く音楽に、感動できなかった。
はじめの数曲聞いて、ぼくはCDを止めた。

ぼくは、次の日、CDを返した。
「すごく良かった! ○○の○○って曲、いいよね」と言った。嘘だ。

「じゃあ、○○はどうだった?」と、彼はCDの後の方にいれていたという曲について聞いてきた。

答えに困ったぼくは「まだそこまで聞いていないんだよね」と答えた。嘘をついている感覚が不快だった。

彼もなにか察したのか、ぼくも嘘をつき続けていることが嫌になったのか、その日をさかいに、少しずつ、疎遠になっていった。

彼に謝りたい。
CDを貸してくれたのに、すぐに聞かなかったこと。
好きになれなかったこと。
好きになったようにうそを言ったこと。

素直な気持ちを言えなかったこと。
それから、あまり話しかけなくなったこと。

あの頃のぼくは、なにもわかろうとしてなかったのだろうな。自分勝手だった。ごめん。

#勝手にコルクラボ #日記

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