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米国によるイラン司令官殺害がなぜ起きたか、これから世界に何がおこるのか

いかに私の見解と、この二日間で見聞きした情報をまとめます。

ただし、Nytimes、Wapo、CNN、BBC、なんでもいいので、英語圏のメディアを見るほうが良いです。(CNN Liveがおすすめ)

Google 翻訳でもいいので、直接クオリファイされているメディアを読むことをおすすめします。


なぜ起きたのか

「この作戦が何故、どのようにして起きたのか?」その疑問を今、世界中の首脳、外交官、ジャーナリスト、あるいは米国の議員が探しています。

BBCは直接的に書いています。「トランプに戦略はあるのか?」


Donald Trump is not a grand strategist. He lives in the moment and acts by instinct. I would be surprised if he thought through the after-effects.

トランプは戦略家ではない。彼は瞬間に生き、本能で行動する。彼がこの行動のあとに何が起こるのか考えていたとしたら、驚きだ。

PJ Crowley 元米国務次官補


トランプ大統領はこの作戦後、挑発するかのようにアメリカ国旗をツイートしています。


そもそもこの作戦が、国際法に照らして適法と言えるのでしょうか。

作戦が実行されたイラクの同意はなく、ポンペオ国務長官が説明するように「米国への攻撃が計画されているという情報をインテリジェンスから得ていた」のかも不明瞭であり、自衛権の範疇に含まれているとは考えづらいのです。


そもそも、本当にイランが国家として米国人への攻撃を企画しているのであれば、ソレイマニ司令官一人を殺害したところで、攻撃がなくなるとも考えづらいでしょう。むしろ激化する可能性があります。

いつでも殺害出来るのにそれを実行しなかったのは、ひとえにソレイマニの存在がイランにとって大きすぎるものであり、もし殺害した場合、その後の対立のエスカレーションがコントロール出来なくなる怖れがあると見られていたからである。



カセム・ソレイマニとは何者か

カセム・ソレイマニ司令官は、イランのみならず、中東のシーア派武装組織や支持者にとっては英雄的存在でした。

彼はイラン革命防衛隊(IRGC)のコッズ(Quds Force)の司令官です。革命防衛隊とは、イラン革命のときに、国軍と別に新政府が手動して作り上げた軍隊であり、国外の様々な武装組織を支援しています。


彼は歴史に残る虐殺者であるアサドの支援者であり、またシリアにおける様々な軍事作戦を主導してきたと見られています


アメリカ民主党の大統領候補であるエリザベス・ウォーレンですら、「ソレイマニは殺人者であり、数千人の死に責任がある」と述べています。

同時に、彼がシリアにおいて対立してきたのはISISであり、ISISの壊滅後の情勢において駐シリア軍をアメリカは撤退しているわけで、アメリカがシリアにおいて影響力を失ったことが彼のせいであるわけでも、また彼が直接米国をターゲットにした作戦を手動したわけでもありません。


攻撃までの経緯


まず、この攻撃が何故起きたのか、前段を紐解いてみましょう。直接的な原因(最も、本当の理由は誰もわかっていない、というのが正直なところかもしれませんが)、あるいは攻撃における大義名分は、イラクの親イラン派デモ隊によるバグダッドの米国大使館への襲撃と見られています。

この襲撃を行った人民動員隊は、イラクにおける親イラン派、シーア派の武装組織であり、当然ソレイマニがこの作戦においても関与しています。


米大使館襲撃の理由となったのは、イラクにおける米国のシーア派武装組織「カタイブ・ヒズボラ」の拠点への空爆です。

そして、空爆の理由は、親イラン派による(と見られていますが、公式には否定)K-1空軍基地への攻撃への報復です。

30発ものロケット砲の攻撃により一人のアメリカ人の民間請負業者が死亡し、複数の米兵が負傷しました。


イランとイラクの関係

イランとイラクの関係は複雑です。サッダーム・フセインとホメイニ師の時代にはイラン・イラク戦争がありました。しかしながら、イラク戦争後のイラクにおいて、イランはイラク内において親イラン派は勢力を拡大してきました。

そもそも、イラクはシーア派が多数の国ですが、バアス党はフセイン時代にはスンニ派の幹部を多数排出し、スンニ派がシーア派を支配する構造が続いてきました。

その後、フセイン政権が倒れたあと、米軍は非バアス化、非フセイン化をすすめ、シーア派の影響力がまし、それに伴いイランとの関係性も強化されています。

両国の輸出入は増加し続けている他、イラクにはナジャフやカルバラなどのシーア派の聖地があり、多くのイラン人が訪れています。


反イラン派のイラク人にとって今回のソレイマニ殺害は吉報です(ポンペオ国務長官がツイートしているように)。

イラクにおける親イラン勢力を主導し、事実上イラク政府に対しても強い影響力を持っていたのが今回殺害されたソレイマニだからです。

イランの影響力の増大が、様々な形で駐イラク米軍にとって脅威になっていることは事実でしょう。


核合意の破棄

大きく時計の針を戻しましょう。そもそもこれほどイランと米国の関係性が悪化した理由の一つに、トランプ大統領による一方的なイラン核合意の破棄があります。

イラン核合意は、欧米諸国とイラン両国にとってかなり踏み込んだ合意であり、国連も含め諸外国が合意した内容でした。

それを、全く一方的に破棄し、更に制裁を課すというのは、常識から言っても中東を極めて危険にします。


イランは核合意に関しては、誠実に履行してきたと言えます。IAEAや諸外国もそれは同意しています。この核合意は中東政策で課題の多かったオバマの最大の遺産です。

ペンス副大統領やポンペオ国務長官など、ホワイトハウスの主要メンバーを支援するティーパーティー運動にとってこの核合意は憎むべき合意内容です。

つまり、オバマのやることを否定する、が唯一の行動原理であるトランプ大統領と、ティーパーティー他、イランを嫌悪するアメリカの保守派の利害が一致した結果が、核合意の破棄なのです。


今回のソレイマニ襲撃のすべての出発点は、ヴィジョンも目的もない核合意の破棄だと言えます。

ポンペオ国務長官は、「攻撃は何千人ものアメリカ人の命を救った」と述べていますが、残念ながらアメリカのバクダット大使館が、可及的速やかにアメリカ人はイラクから避難するように訴えているように、中東における欧米人の危険は確実に増しています。

それに呼応するようにアメリカも中東への増兵を行っています。平和になったと言えるはずもありません。


これから何が起こるか

欧州とイランの脆弱な交渉のパイプも遮断され、イラクでの親イラン派と反イラン派や駐イラク米軍の戦闘は激しくなるでしょう。代理戦争は続くのです。


イランは難しい選択が迫られます。ドナルド・トランプ大統領の行動は全く予測不可能です。直接的な行動を起こせば、彼が何を起こすか誰にもわかりません。

そもそも、イランはイラン革命により成立した純然たるイスラム国家であり、国内の保守派は現大統領のロウハニよりも遥かに強硬な姿勢を保っています。

この殺害により穏健派の勢力が削がれれば、核開発の再開も辞さない強硬派が台頭することも十分ありうるのです。

仮により本格的な(明確に合意内容から逸脱した)核開発が再開されれば、欧米諸国に、ソフトランディングするオプションはほとんどありません。


現在のところ囁かれているのはサイバー攻撃の可能性です。イランは高度に発達した技術国家であり、アメリカへのサイバー攻撃を通じて様々な報復を行う可能性があります。


日本はどうなるのか

イランは日本にとって、資源を輸入する相手国であり、総じて関係性は悪くありません。

そのことから、安倍首相は、アメリカとイランの仲介的な役割を果たしたいと度々述べてきました。

しかし、仮にイランが報復を決断すれば、中東情勢の変化によって資源輸入が不安定になります。日本経済に大きな影響をもたらすでしょう。

安保法制の改正に際し、安倍首相はホルムズ海峡の封鎖を集団的自衛権の発動事例として述べていました。

ホルムズ海峡の封鎖は、イランにとってオプションの一つです。第五艦隊の存在もあり、実現性は不透明ですが、原油価格が上昇するなどの影響がすでに起きています。


このような中、政府は自衛隊の中東への派遣を閣議決定しています。


しかしながら、これまで述べたとおり、核合意の破棄も、あるいは今回の司令官殺害も、グランドデザインもビジョンもなく始められたものです。

仮にアメリカとイランが戦争状態に突入したとき、そのような思いつきに日本が巻き込まれることが本当に正しいことなのか。

なんのヴィジョンもない行動の後始末を取らなければならないのが日本を含めた親米諸国であるとすれば、決して我々は無縁ではないのです。


追記

本日、更に空爆が続いているようです。またアップデートあれば追記します。


励みになります!これからも頑張ります。