栗林良吏のフォークの凄さに迫る
開幕から22試合連続無失点の新人記録を樹立し、新人ながら東京五輪代表に選出されるなど、快進撃が続く栗林良吏ですが、それを支えているボールと言うとフォークになるのではないかと思います。
ストレート、カットボール、カーブとその他の球種も十分高いクオリティーを持っていますが、これらの球種を差し置いて時にフォークを連投してピンチを凌いだりと、フォークの威力とその信頼度は絶大なものがあります。
数値で見ても、被打率.075/空振り率31.4%と圧倒的な威力を誇るこのボールですが、なぜここまでの数値を叩き出せているのでしょうか?
以下にて、考察を加えていきたいと思います。
※本noteで用いるデータについては、特に断りがない限り2021年にフォーク/スプリットを100球以上投じている投手を対象としています。
1.相対的に凄さを見てみる
栗林のフォークを凄いとは言っても、どれほど凄いのでしょうか?
様々な指標を偏差値に換算して、どれほど凄いのかを表現したいと思います。
今回は、被打率/被OPS/スイング率/空振り率の4指標を用いていきます。
この4指標をチョイスした理由を述べておくと、
・被打率→単純にどれだけ打たれないか
・被OPS→被打率の更に詳細版として、長打や出塁を含めてどれだけ効果的なのか
・スイング率→基本的に振らせてなんぼの球種なだけに、どれほど打者にスイングをさせているか
・空振り率→決め球として用いられることが多いため、どれほど空振りを取れているのか
といったものになります。
上記4指標について、栗林の偏差値を算出したものが上記表となります。
全指標で偏差値60超は山本由伸と栗林だけで、被打率と被OPSは堂々のトップの数値です。
スイング率も4位、空振り率も2位とその他の指標でもトップクラスの数値を残していることから、栗林が打たれないし空振りも取れる、理想的なフォークを投げられていることが分かるかと思います。
数値だけでなく体感的な凄さも確認するために、最もその凄さを目の当たりにしてるであろう打者からの視点で、栗林のフォークについて語られた記事等を探しましたが見つけられませんでした。
ただかつて「お化けフォーク」と称された落差の大きいフォークを武器にしていた永川勝浩コーチが、「僕の要素が入らない方がいいくらい。いまの段階で技術的に言うことはない」と栗林のフォークについてコメントしていることから、NPBトップクラスのフォークを投げ込んでいた人から見ても栗林のフォークは言うことがないほど素晴らしいようです。
2.なぜここまで圧倒的な成績を残せているのか?
栗林のフォークが数値で見ると圧倒的な威力を発揮していることが分かりましたが、一体何がキーとなってここまでの成績を叩き出せているのでしょうか?
一般的に良いフォークと捉えられるのは、
①落差の大きさ
②低めに集めきる制球力
③ストレートとのコンビネーションが効いている
の3点ではないかと思います。
この3点をそれぞれ詳細に見ていくことで、栗林のフォークの凄さを解明していきたいと思います。
①落差の大きさ
本来ならトラッキングデータを用いて、物理的な数値として落差を出せれば良いのですが、データが公開されていないNPBだとそうはいきません。
ただ落差が大きいとなると、当然当てることは難しくなりますし、横に長いバットの形状上当たってもゴロになるケースが多くなるのではないかと考えられます。
実際にMLBの過去5年分のデータを用いても、上記のように落差が大きくなる(ホップ成分の数値が小さくなる)ほど空振りやゴロが増える傾向にあります。
そこでここでは、数値としての落差の大きさの代わりに空振り率とゴロアウトとフライアウトの比率を示すGO/AOを用いることで、相対的な落差の大きさを推定していきたいと思います。
空振り率については、予め見たように清水昇に次ぐ2位と非常に高い数値を残しているものの、GO/AOについては平均未満の1.33と、それほど多くゴロを奪うことは出来ていません。
ゴロアウトの方が比率的には多いものの、富山凌雅の7.50や山本由伸の5.64のような圧倒的な数値に比べると、見劣り感は否めません。
MLBのデータから導き出されたものとは矛盾するような結果となりましたが、栗林についてはフォークがインプレーのアウトとなった数が14と、ややサンプル不足な側面もあります。
加えて凡打をコース別に見てみると、低めのGO/AOは3.50な一方で、真ん中から高めにかけては0.20と、しっかり低めに決まったボールについてはしっかりゴロを奪えています。
圧倒的な空振り率と低めに決まったボールは高い割合でゴロを奪えていることから、決して落差は小さいわけではないと考えても問題ないように思います。
②低めに集めきる制球力
フォークにいくら落差はあっても、ボールが高めに浮いてしまうと打者が空振りするケースは減少し、しっかり捉えられるケースも増えてしまうのではないでしょうか?
そういった点からも、フォークをよりリスクの低いコースに集めきる制球力は非常に重要になってくるはずです。
ということで、栗林はフォークをどれだけ低めに制球出来ているかをここでは確認していきます。
こちらは栗林のフォークの投球コースプロット図となります。
パッと見た感じでも非常に低めに集められていて、かつそこで空振りもしっかり取れていることが分かるかと思います。
実際に数値として見ても、低めボールゾーンへの投球率は平均以上と、被OPSや空振り率のように圧倒的な数値ではありませんが、それでも一定以上は低めに集められていることが分かります。
また低めボールゾーンの空振り率はトップと、確かにコマンドされたフォークの空振り率も非常に高く出ています。
GO/AOが現時点で平均以下となっているのは、しっかり低めに投げ込めている上に落差もあるため、他の投手と比べてコンタクトしづらくゴロアウトが増えていないことが要因なのかもしれません。
③ストレートとのコンビネーションが効いている
よくストレートが走っていると、変化球もより効果を発揮するとはよく耳にする言説ですが、ストレートに偽装させて空振りを誘う必要のあるフォークにおいては、ストレートとのコンビネーションというのは他の球種と比べても重要になるのではないかと考えられます。
そのフォークのストレートへの偽装についてですが、ストレートと思わせてフォークを振らせた際にストレートとフォークの間で変化の落差が大きいと、より空振りを奪えるフォークになるのではないかと考えられますが、実際はどうなのでしょうか?
MLBの過去3年分のトラッキングデータを用いて、確認してみたいと思います。
フォークやスプリットを過去3年間で100球以上投じている投手を対象にして、ストレートとフォークの間のホップ成分の差を示すFA-SFとフォークの空振り率の相関を確かめてみると、相関係数0.44と中程度の相関を確認できました。
めちゃくちゃ相関が強いわけではありませんが、ストレートとフォークの間の落差が大きければフォークの空振りも取りやすくなる傾向にあるようです。
①にてその空振り率の圧倒的な高さから、栗林のフォークの落差は決して小さくはないと推定しましたが、これに加えてストレートが空振りを狙えるホップ系の球質であれば、ストレートによってフォークの威力が増していると言えるのではないかと思います。
ということで、栗林のストレートの成績を見てみると、空振り率16.5%とその他のフォークを操る投手と比べても圧倒的な高さを誇っています。
加えて被OPSも.436と平均の.676と比較すると非常に低く、空振りを取れるだけでなくまともに打たれないという点でも、素晴らしいボールです。
またストレートのGO/AOは0.67と平均的ではありますが、フライアウトの方が多く、圧倒的な空振り率を鑑みてもホップ系のストレートを投じられていると考えても問題ないでしょう。
以上より、空振りを奪えるホップ系のストレートを投じられていることから、フォークとのコンビネーションは非常に効いていると言えそうです。
加えて、冒頭で掲げた良いフォークの条件を全て満たしていると言えるのではないでしょうか。
3.まとめ
栗林のフォークの凄さとそのベースとなっているものをここまで紐解いていきましたが、まとめると以下のようになります。
・栗林のフォークの凄さ
あらゆる指標でNPBトップクラスの魔球で、NPBを代表するフォークボーラーであった永川コーチからも太鼓判
・その凄さの根底にあるもの
①空振り率の高さから分かる落差の大きさ
②確かな低めへの制球力
③ホップの大きいストレートと落差の大きいストレートのコンビネーション
フォークに必要な要素を、栗林のフォークは全て持ち合わせていると言っても過言ではありません。
これらに加えて、栗林のフォークの威力を更に上げているのは、ストレートに限らずカットボールやカーブといったその他に使える球種の多さもあるのではないかと考えます。
ストレートとフォークの2ピッチ状態では、打者も特定球種に絞りやすくなりますが、栗林はカットボールとカーブという球種も持ち合わせています。
この両球種のPitchValueを確認してみると、カットボールが-0.6、カーブが0.9と平均をやや下回るor上回る威力のボールで、大きな武器こそなりませんが、カウント球としては問題ないレベルのクオリティーのボールです。
平均的な質ではありますが、この両球種があることで打者は球種を絞りづらくなり、よりフォークの威力も増しているのでしょう。
フォーク単体としての凄さに様々な上乗せ要素が加わって、栗林のフォークは魔球レベルの威力を発揮しているのです。
データ参照