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広島期待の即戦力ルーキーをデータ面から徹底分析

2022年広島の大きな注目ポイントを一つ挙げると、ドラフトで多く獲得した即戦力の選手たちがどれほど活躍できるかという点が挙げられるかと思います。

昨年のドラフトでは、黒原拓未、森翔平、中村健人、松本竜也、末包昇大の5名の大卒・社会人出の選手を獲得し、まだまだ層の薄い投手陣の拡充、鈴木誠也が抜け急務な右の強打者補強に打って出ました。
上記のような期待を向けられての一軍キャンプスタートとなったこの5名ですが、ローテ入りを期待されるも炎上続きで二軍調整となった森翔平を除いては、全員開幕一軍入りを果たしました。

練習試合の段階から多く起用されてきたことで、ある程度データの蓄積も進んできたので、本noteではこの5選手の選手としての特徴をプレシーズンのデータから分析していこうと思います。

1.黒原拓未

173㎝と小柄ながら、投げ下ろすようなフォームから繰り出す速球が威力十分の左腕です。
シート打撃では大炎上するなど不安を抱かせるスタートでしたが、足をしっかり上げるフォームへの修正後はボールに力強さが増し、決して好成績を残したわけではありませんが期待も込められて、開幕一軍のキップを掴み取りました。

こちらが黒原の一軍での登板の成績をまとめたものになります。

1-1.力強いストレートと鋭いカットボール

黒原の武器というと、平均146.9㎞とスピードがあり空振りを奪える質も兼ね備えるストレートと、鋭く変化するカットボールです。

初の対外試合登板となった2/19の巨人戦では、高めのボール球でも空振りを奪える威力抜群のストレートと、140㎞前後でしっかり変化量もあるカットボールで三者連続三振に切って取りました。
この映像を見ると、黒原のポテンシャルを十二分に感じられるのではないでしょうか?

その後はこの両球種で痛打を浴びるシーンも多く、被打率は.300を超えてしまっていますが、xPVで見るとともにプラスの値を記録しており、決して威力がないわけではありません
まだ威力を発揮していない、その他のスライダー、スプリット、チェンジアップといった球種次第では更に効果的に働くでしょうし、そうなればひとまずビハインド時での起用が想定されていますが、勝ちパターン入りも見えてくるはずです。

※xPVについてはこちらのNamikiさんの記事を参考に算出しています。

1-2.画一的な投球パターンと高めに浮きがちな制球力

黒原の投球で気になるのは、特に右打者に対してストレートとカットボールで内に突っ込むばかりの、投球バリエーションの少なさです。
スプリットやチェンジアップがもう一つ決まらないことや、開幕前で投球パターンを全部見せたくないとの意識が働いているとも考えられますが、得意のカットボールをバックドアで使ってみたりと、何かしらの工夫は見せたいところです。
被OPS1.121でK-BB%も0%と、現状右打者の方を苦手にしていることを考えると、落ち球の安定や新たな投球バリエーションは必須です。

加えて、どうしても高めに浮きがちな制球力も気になるところです。
ボールに力がある時はそれでも問題ないですが、2/27の日本ハム戦で今川優馬に本塁打を浴びたように、少しでも球威が落ちると飛ばされる怖さはあります。
ある程度高めに浮いてくるのは仕方ないとして、それを生かすために低めに決まるスプリットやチェンジアップといった落ち球の存在が重要になってきそうです。

2.森翔平

取り立てた特徴はないものの、実戦派の社会人左腕としてローテ入りを期待されましたが、打ち込まれる試合が続き開幕は二軍で迎えることとなりました。
ただ、直近の二軍戦登板では5回を無失点に封じるなど復調の気配を見せており、玉村昇吾や遠藤淳志の状態によっては、早期の一軍昇格もあるのではないでしょうか。

こちらが森の一軍での登板の成績をまとめたものになります。

2-1.K-BB%が-17.5%と支配力不足

投球にまとまりがあるという評価でしたが、6.2回を投げて8四球と制球に苦しみました。
投手が自力でどれだけ有効な投球をしているかを示すK-BB%は-17.5%と、散々な数値に終わっています。
というのも、ストレートの平均球速が138.6㎞(昨年12月の都市対抗では141.9㎞)にとどまり、ゾーンで勝負出来る球威がなかったのが原因と考えられます。

実戦登板でも、球威不足で簡単にゾーンに突っ込んでファウルを打たせてカウントを取ることが出来ない分、コーナーを狙って苦しくなるという投球が散見されました。
加えて、カットボール/スライダーやチェンジアップといった球種の変化量が決して大きいわけではなく、ストレートと軌道を似せて変化させていくボールのため、球威不足がモロに響いて思ったように打者を外せていないといった問題も生じていました。

以上より、森に関しては兎にも角にも球威を最低でも昨年の都市対抗レベルに引き上げないと、この状況からは抜け出せないでしょう。

2-2.球種数以上にバリエーションあり

正直投球内容としては全くと言ってよいほど通用した部分は見られませんでしたが、スライダーの中でも小さく動かしたり大きく曲げたり、左打者には投げない投手の多いチェンジアップを左打者の膝元に落としたり、球種数だけでないバリエーションは強みとなりそうです。

特にチェンジアップは現時点でも空振り率22.2%と高く、これといったボールがない森の中では、打者を仕留めにいける貴重なボールです。
また、軌道の近いシュートも持っているため、球威が出てくればこの2球種間で軌道偽装が効いて効果的な組み合わせになるのではないかと思います。

3.中村健人

キャンプ序盤は末包の陰に隠れる形となりましたが、実戦形式に入ると対応力の高さを見せ、対外試合チーム1号も放ちました。
遠回りするスイング軌道等打撃面に課題は残りますが、守備走塁に破綻はなく、初年度から一軍で一定の出番は貰えるでしょう。

※D-Swing%はZ-Swing%とO-Swing%の差の数値、F-Swing%は初球スイング率を示す

こちらが中村健人の一軍での成績をまとめたものです。

3-1.左投手に強みを発揮

中村健人の成績で特徴的なのは、まだ16打席しかサンプルはありませんがOPS1.104を記録し、BB/Kも1とアプローチも上々な左投手への対応力です。

左投手と対するとタイミングが取りやすいのか、空振りが少なくしっかりコンタクト出来ており、引っ張りこんで長打にすることも出来ます。
中でも左投手の入ってくる軌道のボールには滅法強いため、落ち球さえきちんと見切ることが出来れば、シーズンでも変わらず強さを発揮出来るでしょう。

現チームの主力打者は左打者が多いということもあり、どうしても左投手相手に長打が期待しづらくなっています。
そこにこの中村健人が入ることで、左投手から長打をより多く生むことが期待でき、多少なりともチームの得点力にプラスに働くことになるはずです。

3-2.コンタクト力や変化球対応、真ん中から高めのボールに課題

左投手には強みを発揮する一方、右投手に対しては打席の4割近くが三振と勝負になっておらず、中でも右投手の変化球に対してはコンタクト率が40%台とまともにバットに当たっていません
トータルの成績で三振率やコンタクト率が低く出ているのも、この対右投手時の成績の低さが要因のため、今後プラトーン要員から抜け出すにはここが課題となってくる部分です。

また、低めはすくって対応出来るものの、真ん中から高めに対しては1安打のみと今一つ対応出来ていません
バットが遠回りして出てくるスイング軌道を考えると、内の真ん中から高めはどうしても苦手とするコースにはなりますが、真ん中から外のボールはチームの先輩である長野久義のように右方向に強い打球を運べるようになれば、面白いのではないかと思います。

4.松本竜也

キャンプから質の良いストレートで押していく投球を披露し、実戦6登板で1失点と安定感を発揮して開幕一軍の座を掴み取りました。
ひとまずは勝ちパターンから一つ序列を落とした形での起用となるでしょうが、そこで信頼を積み重ねていけば、勝ちパターン入りも十分に狙えるでしょう。

こちらが松本の一軍での成績をまとめたものです。

4-1.打者を押し込むストレートと右打者への強さ

プロ入り前の都市対抗でも2500回転と高回転のストレートで打者を押し込んでいましたが、プロの打者に対してもそのストレートで押していく姿は健在です。
投球の60%以上が平均142.6㎞と決して速くはないストレートで、被打率.182、xPVもプラスの値としっかり通用していることが分かります。
高回転で質が良いことが最大の特徴ですが、それに加えてしっかり両サイドにコマンドしきれるのも、この松本の武器です。
質の良さ+高いコマンド能力が、好成績を生み出しているのです。

加えて、右打者に対しての被打率は1割以下とここまでは強みを発揮しています
遅いカーブを多く投じることで、強みのストレートがより生きる形となっており、ストレートの被安打は0と非常に効果的に機能しています。
フォークやチェンジアップといった落ち球も活用していますが、横滑りで変化量の小さいカットボールの変化量を大きくできれば、更に右打者には付け入る隙を与えなくなるのではないでしょうか

4-2.変化球の精度と支配力不足

ストレートで押し込めてはいるものの、これといって武器になる変化球が今のところは持てていません
xPVもストレートのみがプラスの値という成績が、それを物語っています。
ストレートのみでは難しいことは本人も承知で、社会人時代に封印していたフォークを解禁したり、佐々岡監督にカーブの握り方や抜き方について指導を受けたり、諸々取り組んでいることが実れば良いのですが…

また、トータルのK-BB%が4%、空振り率も6.7%と低い数値に終わっているのも、リリーフでやっていく上では気になるところです。
基本的に良いリリーフは三振や内野フライといった完全アウトを多く奪える支配力を持っていますし、松本が勝ちパターンに入るには、ストレート以外の球種を磨いて支配力を高めていく必要がありそうです。

5.末包昇大

ドラフト6位入団ながら、その圧倒的な飛距離からルーキーの中では最も注目された存在で、オープン戦でも本塁打を放つなど随所に自慢の長打力の片鱗を見せました。
高校以来という1B守備にはまだまだ課題はありますが、開幕スタメンも狙える位置につけ、プロ1年目のシーズンを迎えることとなりそうです。

※D-Swing%はZ-Swing%とO-Swing%の差の数値、F-Swing%は初球スイング率を示す

こちらが末包の一軍での成績をまとめたものです。

5-1.超積極スイングとインサイドの捌き

末包のここまでの成績で最も特徴的なのは、スイング率が60%を超える超積極スイング姿勢です。
昨年50打席以上一軍で打席に立った選手と比較しても、末包の62.6%というスイング率を上回る打者がいないことから、その超積極ぶりが分かるかと思います。
ただ、ボール球スイング率が40%超とかなりの高水準で、見境なくスイングしてしまっているので、狙いをきっちり絞る+メカニック改善で徐々にボール球にはバットが止まる形に遷移していきたいところです。

プラス面の特徴として挙げられるのが、インサイドの捌きの部分でしょう。
コース別に見てもインサイドのゾーンは全て打率3割を超えており、唯一の本塁打も内のストレートに対して、上手く肘を抜いて対応したものです。

最終的に外のボールで仕留めるために、内に突っ込んでカウントを稼ごうとする攻めに対して、そこに狙いを絞って一発長打を狙うといった芸当を見せてみても面白いかもしれません。

5-2.コンタクト率の低さと変化球対応の粗さ

末包の課題を挙げるなら、タイプ的に仕方ないとはいえどもコンタクト率が極端に低いのは気になるところです。
中でもとりわけ変化球にバットが空を切るシーンが非常に目立ち、落ちる系に対してはバットを出しても2/3が空振りと、まともにバットに当てることが出来ていませんでした。
その割にはISOは平均以下の水準と、当たれば長打という魅力もここまでは発揮されていません
長距離打者を目指すなら当たれば長打の確率を高める必要があるでしょうし、中距離打者寄りのポイントゲッターを目指すならコンタクト率はもっと上げていきたいところです。

また、インサイドの捌きが優れていることとは対照的に、真ん中から外のボールにはからっきし対応出来ていない点も目立ちます。
タイプ的にどうしても外で攻められるケースが増えるでしょうから、もっと外のボールへの対応力を上げていかないと、非常に苦しいのではないでしょうか。

データ参照


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