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1杯500円のコーヒーは高いのか?

こんにちは、川野優馬です。

僕はコーヒーショップを運営している立場なのですが、コーヒーの値段についてずっと考え続けてきました。1杯のコーヒーにはいくらの価値があるのか?そして自分のお店で出すとしたらいくらにすべきなのか?

今日はそんなコーヒーの値段について考えてみたいと思います。


価格が適正かは消費者が決める

まずはじめに、コーヒーの値段に客観的な正解や不正解はなくて、あくまで飲む人がその値段が高いと思うのか、安かったなーと思うのか感じるだけだと思います。どの値段に設定しても、世の中にはそれが安いと感じる人もいるだろうし、高いと感じる人もいるはずです。

どんな人に来てほしいか、どんな消費体験にしたいか、そしてその価格に応じた体験価値がそこにあるかというところで、出し手であるコーヒーショップが意思を持ってコーヒーの価格を決めているんだと思います。


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いきなり横道にそれますが、コーヒー豆代だけで見るとコーヒーの原価はとても低いです。例えばスペシャルティコーヒーで素晴らしい風味個性があるシングルオリジンのロットであっても、1kgの生豆で1500円ほど。1杯分の15gの焙煎豆としても25円くらいです。焙煎の人件費や、抽出工程での人件費などが比率的には大きいコストになっています。

コーヒー生産者に渡る豆のお金はもっとあがるべきだとも僕は思っていて、これについて後半にも書きますが、原価率の計算だけでコーヒーの価格をガチガチに設定しているかというと、どちらかというとその街の物価だったり、1杯のコーヒーをつくるための労力、お店でお客さんが過ごしてくれる体験というところを重視して価格が決められることが多いと感じています。


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モノ付きの体験

コーヒーのモノだけの価値というよりも、コーヒーがある時間、そのお店でコーヒーを飲む体験に価値を感じるものだと思います。

コーヒーを摂取するだけ、と考えたら1杯500円は高いように感じる人も多いかもしれません。技術も進歩して積み重なる企業努力で1杯100円ほどでそれなりにおいしいコーヒーが、ほぼどこでも手に入る時代です。

ただ、ふかふかのソファ、店内や窓から見える緑、心地いい音楽、お店の中のコーヒーの香りだったりという、家ではない場所でリフレッシュした気持ちで、コーヒーを飲みながら友達とお話ししたり、1時間読書をしたり休憩したり、という体験が500円で済むというのは、僕はなんて安いんだろうとも思います。もう安すぎておかしい。コワーキングスペースや会議室を1時間予約するだけでも1000円かかったりする中、気軽に楽しめるカフェはお財布に優しい日常的な消費になっています。コーヒーが美味しかったらもっと最高ですね。コーヒーについてバリスタが教えてくれたり、何気ない会話を楽しめたりと、コーヒーショップでの体験は広がりもあってとても有意義だと僕は思っています。

コーヒーがある体験全体として考えてみると、まだまだ価値に見合った値段にできるし、それだけ素晴らしい体験をコーヒー屋は提供していると思っています。


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コーヒーの嗜好性

コーヒーが好きだったり、カフェやコーヒーショップで時間を過ごすのが好きな人にとっては、500円は適正と感じられたり安いと思われたり。しかしそこに興味が少ない人にとっては高いと感じられます。これはどっちが良い悪いとかいう話ではなく、コーヒーが好みによって選ばれるからです。


嗜好品、つまりなくても生きていけるもの。経済的、精神的余裕や好奇心によって、人によって興味や行動はぜんぜん違うものです。僕はこの、「なくても生きていけるけど、あったらきっと幸せなもの」の積み重ねで人生が豊かで楽しいものになっていくと思っています。どんな趣味でもそうですよね、音楽だってスポーツだって、好きだと感じることがあるから毎日が楽しいし、辛いことだって乗り切れるし、気持ちもリフレッシュできるはずです。

コーヒーが嗜好品だということは、嗜好品だから好みは人それぞれだよね、っていう風にあきらめる意味ではなく、それだけ人を熱中させて楽しませる魅力があるからこそ、もっと楽しみたい、伝えたい、というポジティブな意味合いで僕は捉えています。もちろん人によってコーヒーへの興味や、持っている情報も違っていて、同じコーヒー体験に対しての価値判断は人によって違うので、どの値段も誰かにとっては正解だし、むしろその値段が安いとみんなに思ってもらえるようにその魅力を体験として心地よく伝えていく努力が必要だと思っています。

コーヒーにストイックな人ほど、コーヒー豆の希少性や、美味しさや、豆の情報といったところで価格付けをしそうになりますが、ふとお客さんの立場に立ってみると、意外と内装や店員さんの笑顔やコミュニケーションといったところが無意識的にも伝わってきて、コーヒーというモノ以外の体験を含めた全体で、いい時間だったか判断していると思います。


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個人的な価格感

だらだら思ったことを書いてきましたが、では僕個人は1杯のコーヒーの値段についてどう思っているのか、を書いてみたいと思います。

僕はもうコーヒーがとても好きになってしまっているので、ただコーヒーを摂取しようとか、眠気覚ましが欲しい、という感覚でコーヒーは買わず、おいしいコーヒーを楽しく飲みたい、という理由でコーヒー屋に行きます。


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日常的に毎日飲むコーヒー、例えば家の近くのコーヒースタンドに出勤前に毎日通うとかってことを考えると、400円くらいに抑えたいなあというお財布の感覚もありつつ、雰囲気の良いお店でコーヒー片手にのんびりしたりお店での時間を楽しもうという時には700円くらいでも全然ありというか、体験が良ければもっと高くても納得してしまうと思います。

結構この辺は、持ち帰りだと安くなるような設定にしていたり、1杯ずつ淹れるドリップと、まとめて作っておいてパッと渡せるマシン抽出のコーヒーとで価格差をつけたりと、コーヒー屋ごとに工夫があったりしますよね。

気軽に楽しんでもらえるお店でありたいけど、価値がある体験にはコストもかかっているし、続いていけるための妥当な価格設定にもしたい。そんな日常性と非日常性の狭間で、最終的にはお店の決めで価格が決められていきます。


あと、僕は豆を買って家で淹れることも多いのですが、家で淹れる場合1杯100円くらいで済むんです。100円でこれだけ1日がわくわくするなんて、なんてお財布に優しい趣味というか、楽しみなんだろうとも思います。みなさんぜひ家でもコーヒー淹れてみてくださいね。


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上げること、下げることで変わること

値段を上げていく = その値段に見合うような体験価値に上げていく、ということが一見良さそうで、そう目指す人も多いと思っています。実際に僕もそう思っていて、これだけ素晴らしい価値なんだから500円ではなく600円の価値がある、と決めて値段を上げて、お客様に来続けてもらえる、認めてもらえるというのは、コーヒーがある時間の価値を伝えていくためにもとても意味のあることだと思っています。

でも一方で、値段が安いことがプラスに働くこともたくさんあります。値段が高いからという理由で来店されないお客様にもコーヒーの価値を伝えることができるし、みんなの消費意識もより気軽に日常的になります。お店の経営的に、値段を下げる方が販売量が増えてより持続的になることだって大いにあります。

価値がある、と思うことや認めることと、その価値を伝える、ということでは値段の付け方は別で、意図や戦略がそこには入ってくるということだと思います。


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コーヒーの値段を上げたら、生産者へのお金も増える?

もっと考えてみて、コーヒー生産者に渡るお金はどう変わるのか?ということも書いてみたいと思います。前半に書いたように、僕はコーヒー生産者へ渡るお金ももっともっと増えて欲しいなと思っています。エチオピアのコーヒーなんてその美味しさ、1杯のモノの価値だけで考えても仕入れ価格が安すぎると思うし、これだけ素晴らしい体験を生むコーヒー生産者、特に感動あるおいしいコーヒーをつくる人たちには、その労力と結果に見合った対価がもっともっと渡って欲しいと思っています。


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そのために、1杯のコーヒーの価格はどうあるべきか?考えてみると、値段を上げたほうが生産者へのお金も増える、と感じる人も多いのではと思います。僕は実は逆で、価格を下げた方がストレートに考えると生産者にお金が渡ると思っています。なぜかというと、コーヒーショップの立場では、生豆の買い付け価格に介入できないからです。基本的に生産国の輸出業者が、生産者と品質に応じた価格交渉、仕入れを行って、そのリストの中から消費国の商社が仕入れを行い、消費国の商社の在庫の中から決められた価格でコーヒー屋は仕入れる、という流れになっているので、いくらコーヒーの販売価格をあげても利益はそのコーヒーショップに溜まるだけで、買い付け価格 = 生産者の取り分は変わらないのです。同時に価格を上げる方が需要が減るのが一般的です。だとすると、価格を下げてたくさん豆を流通させる方が、生産者には間接的ですが経済的影響を与えることができたりします。需要を増やすことで、翌年の供給量を増やしたり、産地での競争が生まれて生豆の価格が上がったりもあり得ます。

とはいってもそう簡単な結論だけではなく、コーヒーショップが直接買い付けに関わることも、頑張ればできます。生豆の買い付けから輸入まで自ら行うことだって、商社経由で仕入れるロットの指定や価格交渉にまで入っていくことも可能で、いろんな取り組みがあります。コーヒーショップ自体が儲かるほど、店舗も増やしてコーヒーを提供する機会を増やして、仕入れ量増加になることもあります。

結局は、コーヒーショップ自体が持続的、健康的であるからこそ、コーヒーを買い続けることができて、その利益を生産者に還元し続けることができるのだと思います。


コーヒーが届くまでの流れは前noteにまとめてみたので、気になった方はぜひ読んでみてください。


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そう考えるとコーヒー1杯の値段は、関わるみんなの仕事が存在し続けるために決まると言ってもいいのかもしれません。出し手が信じていることと飲み手が感じることのバランスが取れるからこそ継続していく。信じている価値が感じられるように、伝わる体験にする。

どんな仕事もそうだと思うのですが、コーヒーはより人によって価格の感じ方が違ったり、できる取り組みも多様なので、今回改めて考えてみました。



こんなに楽しいコーヒーショップの時間、その値段相応に感じてもらえるかは伝え方次第、お店のあり方次第。


僕ももっとコーヒーの価値が伝わるように、コーヒー屋の立場としても、動き続けていきたいと思っています。


みなさんはコーヒーの値段、どう感じていますか?



川野優馬


さいごに
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