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コーヒー屋をはじめて9年

今日7月31日で、僕がコーヒー屋 LIGHT UP COFFEE をはじめて、ついに9周年を迎えました。

この節目に今回はお店のこれまでを振り返りつつ、これからの展望を語ってみようと思います。


コーヒーとの出会い

学生時代にカフェのチェーン店でなんとなくアルバイトを始めたことから、僕とコーヒーとの関わりはスタートしました。

エスプレッソマシンを使ってコーヒードリンクをつくる仕事は感覚的に面白く、その中でラテアートというものを知りました。分かりやすくすぐに喜んでもらえて、その時がもしかすると人生で初めて自分がつくったモノで仕事として、誰かに評価された瞬間だったのかもしれません。無我夢中でラテアートの練習にはまり、アルバイト仲間とともにラテアートの大会に出たりもしました。

大学1年〜2年の頃は、ひたすらラテアートにはまっていました


そんな時、ラテを飲みに色々なコーヒーショップをめぐる中で、スペシャルティコーヒーと出会ったのです。

大学2年の頃の夏休みにアルバイトで貯めたお金でロンドンへ語学留学したのですが、その時に寄ったWorkshop Coffeeというお店(当時のST. ALi)がとてもかっこよく、果実味があるカプチーノの味にびっくりしました。

当時のロンドンのST. ALi


それからコーヒーのフルーティさに興味を持ち、東京の奥沢にオープンしたOnibus Coffeeでカフェラテの美味しさに衝撃を受けました。その時はエチオピアのナチュラルが入っているブレンドでエスプレッソを落としていたと思うのですが、まるでイチゴチョコレートのような甘い香りで、一気にコーヒーの味の違いに興味を持ちました。

そして富ヶ谷にオープンしたFuglen Tokyoでは、ノルウェーのオスロのTim Wendelboeが焙煎したエチオピアを飲んだのですが、柑橘や紅茶のような繊細な風味にまた驚きました。

この3店舗でのコーヒーが、味の違いはわからないと思っていたコーヒーへの印象がひっくり返ったきっかけでした。


ロンドンのWorkshop Coffee。手前のカフェを抜けると奥は吹き抜けの焙煎所になっていて、壁一面には植物。かっこよかった。


もともと何かつくるのが好きなタイプだったので、その時から自分もフルーティでおいしいコーヒーをつくってみたいと思い、居ても立っても居られなくなりました。勢いのまま銀行に飛び込み、融資を受け、2013年にフジローヤルの1kg焙煎機を購入しました。

実験のような感覚で、0.5度単位で温度が違う焙煎や、20秒単位で時間が違う焙煎など、パターンを試してテイスティングをしていくうちに、何を変えれば味がどう変わるのか少しずつわかっていきました。

初めて買った焙煎機。写真は吉祥寺店での様子。1回の焙煎で500gしか焼けないので、毎日何十回も焙煎していました。


そしてその夏に焙煎した豆を持って、同じアルバイト先で出会ったコーヒー好きの仲間2人と、北欧含むヨーロッパの国々へ2ヶ月間コーヒーショップをめぐる旅に出ました。

行く先々のコーヒー屋でバリスタさんにお話を聞いたり、豆を渡したりしました。一緒にカッピングをさせてもらったり、焙煎を見せてもらったり、豆をくれたりと、どのお店も驚くほど歓迎してくれました。

オスロに行った時は、念願のお店 TIm Wendelboeにも行くことができて、滞在中毎日通いました。そうしてコーヒーのおいしさや面白さを肌で感じ、帰国した頃には自分の中でのおいしいコーヒー像がはっきりしたものになっていました。その頃には、こんなコーヒーのおいしさを日本で伝えたいと意気込んでいました。


オスロでのカッピングの様子。右端には僕が焙煎したコーヒーも。


そして東京の西側で物件を探すこと半年。コーヒーに向き合える穏やかさがあり、同時に外からも人が訪れることの多い吉祥寺に理想の物件が見つかりました。オーナーさんにコーヒーへの思いを伝え銀行に追加融資も申請し、なんとかすべてが噛み合って物件を契約することができました。

DIYでお店をつくるのは初めての経験で、友人の助けもありながらなんとか1ヶ月で内装を終え、ついに2014年7月31日にLIGHT UP COFFEEはオープンしました。


今も忘れないオープン日の景色。自分達がつくった空間で自分達のコーヒーを飲んでもらえるのは不思議な嬉しさでした。


目指すおいしさ

僕たちが大事にしているのは、コーヒーの日常的なおいしさです。

おいしいコーヒーがあることで1日が少し明るく感じると僕は思っていて、そんな日常が積み重なって毎日がわくわくするものになると思います。おいしいと感じる時間が毎日あることで、コーヒー以外の飲食や感覚的な趣味にも繋がったりして、みんなの人生がさらに楽しいものになる入り口になるとも思っています。

だからこそ、豆ごとの個性がありつつも、飲み続けても飽きないバランスを豆の仕入れや焙煎では意識しています。僕たちにとっての「おいしい」は、肩の力を抜いて楽しみ続けられる「おいしい」なんです。


店舗を半分に

2017年には新しくフジローヤルの5kg焙煎機を購入し、下北沢に焙煎所を構えました。吉祥寺店も2021年に新しくリニューアルし、明るく広く生まれ変わりました。実は京都と渋谷パルコにも店舗をオープンしていたのですが、観光地だったこともありコロナの時期に閉店させ、その後遠く離れた方にもコーヒーを届けられるよう、オンラインストアの整備や発信を進めました。

器具がない方にももっと手軽においしいコーヒーを楽しんでもらおうと2020年にはエスプレッソキューブを発売して多くの反響をいただきました。

2021年にはコーヒー豆を選びやすく買いやすくするためにオンラインストアをフルリニューアル。毎日おいしいコーヒーを気軽に楽しんでもらうために、選ばなくても毎月新しいコーヒーが届く形がベストだろうと思い、コーヒー豆の定期便の体験づくりに集中しました。

2022年にリニューアルした吉祥寺店


コーヒーのおもしろさ

僕が家でいつも飲んでいて思うコーヒーの魅力は、産地やロットごとに、毎回違う風味があるということです。好きな産地のコーヒーを飲み続けるのもそれはそれで最高な楽しみ方なのですが、飲むたびに新しい発見があったり色とりどりの味わいに出会えることの方が、こうした個性豊かなシングルオリジンコーヒーならではの魅力なのかなと思います。

定期便では、毎月3種類、違うシングルオリジンを届けるようにしました。僕たちが思うおいしさの水準で、より多くの種類を仕入れられるように、ノルウェーやシンガポールの商社さんなど新しい仕入れルートを開拓して、最終的に10以上の商社さんから生豆を仕入れる形になり、飲み比べて楽しい定期便になりました。

ありがたいことに定期便ご加入者も増え、2023年には焙煎量の限界を迎えました。


ノルウェーの商社 Nordic Approachに行った時の様子。


新焙煎機

そして2023年の3月、新しく焙煎機を購入しました。ドイツのプロバット(Probat)社が1960年代につくった22kg焙煎機 UG22です。機械ごとに仕組みが違うため、焙煎機メーカーによって味わいの方向性がなんとなくあるのですが、プロバットで感じる「じわじわ優しい味わい」が僕たちの目指す日常的なおいしさとマッチしていて、ずっとこの焙煎機が欲しかったんです。

そしてヴィンテージということもあって超かっこよくて、もうロマンの塊です。この時代の焙煎機は釜の鋳物の質がとてもよく、蓄熱性に優れています。下北沢で使っていたサイズの4.4倍の焙煎能力になりました。

三鷹の新焙煎所。カフェも併設して9月ごろオープン予定です。


10年目にやりたいこと

8月からいよいよ10年目に突入するのですが、まずは新焙煎所の稼働に集中し、より多くの方にコーヒーを届けられるように整えていきたいと思っています。1回の焙煎で10kg以上のコーヒー豆があがるので今までよりも格段に効率的に焙煎が進められますし、焙煎量が増える分定期便のご参加者もさらに増やしたいと思っています。

新焙煎所の2階は豆の梱包発送作業を行うオフィスにもなっていて1階が焙煎所兼生豆置き場、入り口にはカフェも併設し、その場でコーヒーも楽しめるようにしようと今内装を進めています。

可能であればさらに新店舗もつくりたいと思っています。
お店を作るのは簡単ではないのでどこまでできるかはわかりませんが、僕たちが思うおいしいコーヒーを気軽に楽しめる場所は増やしたいと思っています。

これまでオンラインを意識して活動してきましたが、そもそもコーヒー豆を買いたいと思ったり、コーヒーって面白いと思ってもらえる最大のきっかけは、店舗でバリスタが淹れたおいしいコーヒーを飲む瞬間だと思います。空間やサービスとともに、コーヒーにビビッとくる体験をもっと増やしたいです。


僕たちはロースターです。生産者がつくった生豆を仕入れそれを伝える立場です。コーヒーの価値を長い接点で伝えるためにも、やっぱり豆を一番売りたいんです。

例えば150gの豆1パックを買ってもらえると、10杯コーヒーを楽しんでもらえるので、店頭でドリップを楽しんでもらえた10倍の量、10倍の時間で、僕らが届けたいコーヒーを楽しんでもらえることになるはずです。月に1回飲む特別なコーヒーというよりも、毎日家の棚にコーヒー豆を置いてもらえるように、できる限りハードルを下げてその魅力を寄り添いながら伝えたいと思っています。


三鷹新焙煎所の2階オフィス。ここで豆を詰めて出荷しています。


生産者のこと

コーヒーをつくっている人。それはバリスタでもロースターでもなく生産者です。バイヤーが選び、ロースターはその個性を引き出しまとめ、バリスタは液体にして伝える役割。コーヒー消費国にいるとバリスタやコーヒーショップに注目が集まりやすいように感じますが、僕たちが光を当てたいのは生産者なんです。

僕たちは、もちろん日常的な素晴らしいコーヒー体験を突き詰め、最大限おいしいコーヒーを仕入れ、最もその個性が心地よく伝わるように焙煎・抽出に技術も熱意も尽くしていますが、僕たちがすごいからおいしいんだとは思ってほしくはないんです。

もちろんそう言ってもらえるのはとっても嬉しいことなんですが、やっぱりそれぞれの農家さん、精製所の人たちの仕事、そしてそのコーヒーチェリーが育った環境が素晴らしいんだと思ってほしいんです。そのためにもこれからは、直接関わりを持つ生産者のコーヒーの取り扱いを増やしていきたいと思っていますし、まだ訪問したことのない生産地にも足を運びたいと思っています。彼らは何を大切にコーヒーをつくっているのか、なぜそのおいしさがつくられているのかということをもっと言葉にしていきたいと考えています。

コーヒーの情報やストーリーは、あくまでおいしいと飲んでもらえた先に伝わるものだと思っていますが、僕らがシングルオリジンコーヒーを扱うからこそ、その意味はもっと形にしていきたいと思います。

インドネシアのバリ島では2018年に精製所をつくり、コーヒー生産をみんなで体験するツアーを2019年から開催してきました。


僕たちだからできるコーヒー

なぜコーヒー屋をやっているのか。それは僕たちだからこそ切り取れるコーヒーの魅力と、僕たちだからこそできる伝え方がありそれに意味があると確信しているからです。どのコーヒー屋もそれぞれの感性や経験というフィルターを通して、そのコーヒー屋らしくコーヒーを提供しているはずです。

僕たちは、いいコーヒーだからこそ、その複雑な価値を噛み砕いてわかりやすく寄り添う形にして届けられると思っています。1人1人の生産者の限られた量のシングルオリジンコーヒーを多くの人に広めるということや、特別な風味のするコーヒーを日常的に伝えるということ、個性もバランスも大事にするということ、どれもが矛盾したことですが、この矛盾を両立させながら伝えることに僕は面白さや意義を感じています。

人生を楽しいものにしてくれて、支えてくれて、時には突き動かしてもくれる、こんな素晴らしいコーヒーをこれからも伝えつづけていきたいと思います!


川野優馬

LIGHT UP COFFEE



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