見出し画像

前十字靱帯損傷〜女性に多い理由とは〜

本日は前十字靭帯損傷が女性に多い理由についての記事を書いていこうと思います.
性差については前回の記事をご覧になって頂ければと思います.


◎疫学


☑︎女性アスリートは,男性に比較してACL損傷のRiskが3倍である.
(Kelvin R et al:Cureus.2021より)

☑︎同じスポーツで比較した場合,女性選手の方が男性選手に比較して受傷が多い.
(Moses B et al:Res Sports Med.2012より)

以上のように,ACL損傷について女性の方が受傷率が高いと報告されています.

その理由としては神経筋制御によるもの,筋力による性差などが報告されていますが,女性ホルモンの一つである「エストロゲン」が関与しているとも報告されています.

◎エストロゲンとは

卵胞ホルモンとも呼ばれ,女性らしさをつくるホルモンであるといわれています.

☑︎エストロゲンの血管拡張作用が,組織の水分量を増加させ,靱帯強度が変化する.
(Medvecky MJ et al :Bull Hosp It Dis.2000より)

☑︎エストロゲンは,大腿四頭筋の筋力を増加させるとともに筋疲労も増加させる.
(Sarwar R et al:Physiol.1996より)

☑︎エストロゲンが大腿四頭筋の筋力を増加させることで,神経筋コントロールに変化が生じる.(Sarwar R et al:Physiol.1996より)

◎月経との関連性

☑︎月経周期に膝関節のJoint Laxityが増加し,ACL損傷患者数も増加する.
(Parks S-K et al:Am J Sports Med.2009より)

☑︎月経周期を通して,有意に膝関節のLaxityが増加した.
(Parks S-K et al:Am J Sports Med.2009より)

月経周期になると,膝関節のJoint Laxityが増加することで,女性ACL損傷患者が増加すると報告されています.

◎General Joint Laxityについて

General Joint Laxityとは,全身関節弛緩性のことを指し,関節包や靱帯などの結合組織の脆弱性によって,関節の支持機能が低下し,全身の主要な関節に過可動性がみられる身体的な特徴である.と報告されています.
(矢倉 千昭 ほか:Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy.2014より)

このGeneral Joint Laxityでは筋-骨格系の支持性低下が起こり,体幹・下肢のスポーツ外傷・障害に関与している可能性が示唆されています.
(Smith R et al:Br J Sports Med.2005より)

Tomomi Yamazaki et al:A preliminary study exploring the change in ankle joint laxity and general joint laxity during the menstrual cycle in cis women.Journal of Foot and Ankle Research.2021より引用

General Joint Laxity評価項目
1.母指が前腕につく
2.肘の過伸展≧15°
3.背中で指を握ることができる
4.反張膝≧10°
5.足関節背屈角度≧45°
6.立位体前屈で手掌が床につく
7.立位で股関節が外旋し,つま先が180°開く
上記7項目 各1点(左右:0.5点)で評価するとされています.
3点以上でGeneral Joint Laxity test陽性であると評価されます.

☑︎足関節外側側副靭帯弛緩性と月経周期の関連を調査したところ,General Joint Laxityと足関節靭帯弛緩性は,排卵期において有意な正の相関関係を認めました.
(Yamazaki T et al:A preliminary study exploring the change in ankle joint laxity and general joint laxity during the menstrual cycle in cis women. Journal of Foot and Ankle Research.2021より)

☑︎ハムストリングスと大腿四頭筋の筋力比が,女性の動的不安定性を惹起する.
(Ahmad CS et al:Am J Sports Med.2006より)

◎まとめ

女性における受傷率の高さは,エストロゲンホルモンにより,大腿四頭筋の筋力増加する.大腿四頭筋の筋力増加によるハムストリングスとの筋力比が動的不安定性が惹起され,ACL損傷が生じることが示唆されます.
また,月経周期において排卵期にGeneral Joint Laxityと足関節靭帯弛緩性が正の相関を示したことから,女性はGeneral Joint Laxityを有しやすく損傷が生じやすいことが示唆されます.

一方で,ホルモンは内因的なものになるので,理学療法士は直接的には関与できません.しかし,上記の知識があると,General Joint Laxityを評価する必要性,大腿四頭筋およびハムストリングスの筋力を評価する必要性,動的アライメントを評価する必要性があることが分かります.

以上になります.最後までご覧頂きありがとうございました.
※論文を読んだ上での個人的な見解が含まれております.鵜呑みにせず,ぜひ論文をご一読頂ければと思います.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?