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胸腰筋膜〜リクエスト記事〜

「胸腰筋膜」に関する記事のリクエストがありましたので、本日はそちらの記事を書こうと思います.


◎解剖

F .W.Willard et al:The thoracolumbar fascia: anatomy, function and clinical considerations.Journal of Anatomy.2012より引用.

胸腰筋膜は,胸部と腰部の固有背筋を包んでいる筋膜のことを指します.
(由留木 裕子 ほか:腰背部痛における胸腰筋膜の関与.総合福祉科学研究 第10号.2019より)

胸腰筋膜は3層構造をしていると報告されており,
1.Posterior layer:固有背筋を覆う
2.Middle layer :腰方形筋と固有背筋の間に存在する
3.Anterior layer :腰方形筋の前方で大腰筋との間に存在する
に分けられると報告されています.
(F .W.Willard et al:The thoracolumbar fascia: anatomy, function and clinical considerations.Journal of Anatomy.2012より引用.)

由留木 裕子 ほか:腰背部痛における胸腰筋膜の関与.総合福祉科学研究 第10号.2019より引用

胸腰筋膜というと想像することが多いのは,大殿筋と広背筋を連続するPosterior Layerかと思います.

◎Posterior Layer

(赤羽根良和:腰椎の機能障害と運動療法ガイドブック.運動と医学の出版社.2017より)


いわゆるPosterior Layerの胸腰筋膜は,仙骨レベルでは,胸腰筋膜は大殿筋を覆うように走行すると報告されています.
(赤羽根良和:腰椎の機能障害と運動療法ガイドブック.運動と医学の出版社.2017より)

◎Middle Layer

腰方形筋と固有背筋の間に存在するLayerです(下記,MLF).

M. D. Schuenke et al:A description of the lumbar interfascial triangle and itsrelation with the lateral raphe: anatomical constituentsof load transfer through the lateral margin of thethoracolumbar fascia.Journal of Anatomy.2012より引用

このMiddle Layerが存在する部位には,lumbar interfacial triangle(上記,LIFT)と呼ばれる腰部筋膜間三角が存在し,そこには脂肪組織で満たされていると報告されています.(M. D. Schuenke et al:A description of the lumbar interfascial triangle and itsrelation with the lateral raphe: anatomical constituentsof load transfer through the lateral margin of thethoracolumbar fascia.Journal of Anatomy.2012より)
また,脊椎を完全に屈曲させると,胸腰筋膜の長さはNeutral positionから約30%増加すると報告されています.(Gracovetsky et al..1981より)

以上の報告から,胸腰筋膜は滑走性が必要な構造体であることが示唆されます.

◎腰痛と胸腰筋膜の関連性

☑︎12ヶ月以上経過している慢性腰痛患者では,胸腰筋膜が硬く,肥厚・伸張性低下・滑走性低下が認められたと報告されています.
また,女性に比較して男性で硬い傾向にあるとも報告されています.
(Helene M Langevin et al:Reduced thoracolumbar fascia shear strain in human chronic low back pain.BMC Musculoskeletal Disorders 2011より)
☑︎慢性的な腰背部痛を有する患者を超音波で検査したところ,胸腰筋膜の厚みが有意に増加していたと報告されています.(→つまり,胸腰筋膜が肥厚していた).
(由留木 裕子 ほか:腰背部痛における胸腰筋膜の関与.総合福祉科学研究.2019より)

以上の報告から,胸腰筋膜は腰部痛に関与することが示唆されます.

◎胸腰筋膜と上殿皮神経

胸腰筋膜には上殿皮神経が貫通すると報告されています.
(R. SHANE TUBBS et al:Anatomy and landmarks for the superior and middle cluneal nerves: application to posterior iliac crest harvest and entrapment syndromes.J Neurosurg Spine 13:356–359, 2010より引用

R. SHANE TUBBS et al:Anatomy and landmarks for the superior and middle cluneal nerves: application to posterior iliac crest harvest and entrapment syndromes.J Neurosurg Spine 13:356–359, 2010より引用


Jay Karri et al:Pain Syndromes Secondary to Cluneal Nerve Entrapment .Current Pain and Headache Reports.2020より引用

上殿皮神経は,上記図のように殿部上外側の感覚を支配するので,胸腰筋膜の滑走性低下などにより,上殿皮神経絞扼が生じ,殿部の感覚低下を惹起することが示唆されます.

◎上殿皮神経絞扼による症状

金 景成 ほか:上殿皮神経障害のレビュー.脊髄外科 VOL. 30 NO. 2 2016より引用

上殿皮神経障害による症状は,上記に示す通り
☑︎腰部痛のみが出現する:52%
☑︎下肢症状を伴う腰部痛が出現する:47%
☑︎下肢痛のみが出現する:1%と報告されています.
→以上の所見より,胸腰筋膜の滑走性低下により,上殿皮神経絞扼が生じた場合,
 殿部の感覚低下のみならず,下肢症状を伴う可能性があることが示唆されます.

◎胸腰筋膜と下肢症状

腰痛と下肢痛(仮性坐骨神経痛)と間欠性跛行を呈した症例に対して,術中所見より
広背筋と内腹斜筋の筋間における筋膜レベルにおいて,脊髄神経後外側枝が絞扼され
手術により,デブリードマンを行うと,上記の症状が改善したと報告されています.

M. D. Schuenke et al:A description of the lumbar interfascial triangle and itsrelation with the lateral raphe: anatomical constituentsof load transfer through the lateral margin of thethoracolumbar fascia.Journal of Anatomy.2012より引用

上記図の「IO」が内腹斜筋,「LD」が広背筋です.この筋間の筋膜は胸腰筋膜のMiddle Layerに該当する部位です.

◎まとめ

胸腰筋膜は3層構造をしており,慢性腰痛患者では,胸腰筋膜の肥厚や滑走性低下が認められたという報告から,腰部痛を考える上で胸腰筋膜も重要な組織であると考えられます.
また,Middle Layerと呼ばれる部位にはLIFTと呼ばれる筋膜間三角が存在し,
その部位は脂肪組織で満たされることから,滑走性が必要な部位であることが
示唆されます.
腰部痛のみならず,下肢症状を伴う症例がいるため,このことを念頭に入れて
評価する必要があると感じました.

以上になります.
本日は胸腰筋膜のリクエスト記事でした.
最後までご覧いただきありがとうございました.
※論文を読んだ上での個人的な見解となっております.興味のある方はぜひ論文を
お読みになっていただき理解を深めていただければと思います.


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