第5話 あの人との時間
レッスン当日。
まさかほんとにこの日が来るなんて思ってもいなかった。特別な、不思議な感情で受講する地方レッスン。なんとなくの白い服を着ていつもどうりのメイクをしてレッスンスタジオまで足を運ぶ。まだまだ夏はこれからと言わんばかりの太陽を見て、去年の夏期講習での思い出を思い出しながらスタジオに入る。
初めてのスタジオだった。
まだ新しいのだろうか。壁にはギターが飾られていて、カウンターは色とりどりの光があって
オシャレ。
待ち合わせ場所でスマホを開きながら待つ。
Aさんの投稿をぼーっと眺めていた。
(これから私はこの人に会うんだ)
なんて思うと妙に緊張するようだ。
1分、1秒が長い。
緊張して手汗が流れてくる。
久しぶりのピアノレッスン。
嫌な過去がよみがえる。
けれどそんな過去はもう過ぎたことだ。なのに…
気にしてしまうのは何故だろうか。
先生との唯一の連絡手段のインスタを開く。
【3週間前に送信済み】
そんな文字が表示され、静かにスマホから目を離す。
ここまで来たのに未だに先生のことが忘れられない。レッスン楽しみたいのに。
男性の声が聞こえた。Aさんだ。
元気で人を笑顔にさせるような声。
レッスンを受けていた生徒さんだろうか。
その人に深深とお辞儀をし、笑顔を振る舞い握手を交わしていた。
けれど、次の瞬間にはその笑顔は自分に向けられていた。
私はAさんから目が離せなかった。
1度会ったはずなのに実在するなんて信じられなかった。その気持ちと同時に緊張という氷は真夏の太陽に溶けるようになくなって行った。
「やっと会えたね」
彼がそう言った時、私も自然に頷いた。
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