第9話 夜景の光に照らされた横顔

【クリスマスレッスン】
そうスマホに表示される。
ぼやーっとその表示を見つめながら、休み時間1人でクラスの人の様子を眺める。
それが最近の日課となっていた。
12月24日。Aさんと2人きりのクリスマスイブ。
何も考えられなかった。
想像もできなかった。
その日を待ち遠しくしながら毎日何気ない日々を過ごす。


当日になると更に頭は真っ白になった。
いつもは昼にレッスンがあるものの、夕暮れから
夜にかけてのレッスンにした。ライトアップされた街並みを見たくてその時間にした。
いつもの駅で降りてケーキを買って彼の元へ急ぐ。どこか寂しい空気が漂い始める冬。
その中を恋人達がいつもとは違う雰囲気でお互いの温もりを感じ合いながらすれ違って行く。
私はそれを気にせず、ただただスタジオへ急いだ。急ぎすぎた結果30分前に着いてしまった。
ここから地獄のドキドキカウントダウンが始まる。
このカウントダウン。毎回の楽しみでもあり、心臓に悪い時間である。
スマホを開いて気を紛らわすが、全く効果は無い。
仕方なく単語帳を開き、勉強を始める。
すっかり夢中になって勉強していた。
Aさんが来るのも気づかずに。


…ちゃん    …ちゃん…!
ようやく気づいた私。
でも言葉にする前に声が出なかった。
(サンタさん…!!)
彼はサンタさんの格好をしていた。

「え…?笑笑」

でも後々思い出すと思う。
めちゃくちゃ可愛かった…!!
この世のサンタさんの中で1番可愛かったです。…と、まぁそんなことは置いといて。

いつもどうり、驚きは隠せないもののレッスンの部屋に行く。
グランドピアノが2台置いてあって綺麗な部屋。
少し肌寒い部屋にAさんと私の声だけが部屋に響く。
ピアノを弾いてAさんを見ながら話す。

今日もかっこいい。

持ってきたケーキを広げて食べ始める。
けれど、マスクを外すのを躊躇していたら、電気を消してくれた、紳士な彼。
持ってきたケーキを嬉しそうに頬張ってくれるAさん。私ただAさんを見つめながらケーキを食べた。何となくいつもよりケーキが甘くて美味しい気がした。
するとAさんが急に立ち上がる。
スっと夜景に照らされているグランドピアノの前に立ちそのまま座る。

ピアノを弾いてくれた。
あの人の横顔が夜景に照らされる。
綺麗…。
一生忘れられない光景。
もう二度と過ごせないかもしれないロマンチックなクリスマスイブ。

今でもその光景が離れないよ。

演奏が終わり私はぼーっとするしかなかった。
反応はしているものの、心の中ではうっとりしていた。
ほんとに綺麗としか言いようがない。
泣きそうになった潤んだ目でAさんを見つめる。
そして何事も無かったかのようにケーキを食べる。

Aさんの彼氏になったらどれだけ幸せだろうか。
つい、その心の内が出てしまった。
けれどAさんはにっこりと笑って
「諦めたらあかんで」
とだけ言った。

恋していいですか。


これから戻っていく日常。
次いつ会えるか分からない。
Aさんに会いたい。会いたい。
その思いが日々募る。
次いつ会えるのだろうか。


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