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2023-5

何度目かのやり取りの時
思い切って私は書いた。

本当はね、昔お別れしてから
私はずっとKくんに嫌われてしまったと
思っていました。
だからFBで連絡くれた時に
飛び上がるくらいびっくりしたし
とても嬉しかったんです。

返事が来る。

嫌ったりした覚えはないよ。
ただ、人には簡単に越えられない想いがあるのだと
学んだ記憶があります。
喜んでくれたならそれはそれで
嬉しいことです。
怪我で得たもの、怪我で失ったもの、
それが私の高校生活でした。
屈託のない青春というには不遇な時期だったけど
忘れがたい思い出でした。

ちょっと待って。
嫌ってないならなんで電話ガチャ切りしたん?
手紙の返事くれんかったん?
会った時に話もしてくれなかったん?
てか話ズレてない?
私が言ったお別れは大学生の時で
今Kの言ってるのは高校生の時の話。
Kの中では大学時代に付き合ったことは
無いことになってるのか。
それとも別のフォルダに入ってるのか。

私は混乱した後に気付く。
結局、高校生の時に言ってしまった
別れるための嘘が、Kをずっと傷つけていたのだと。
それは数十年後の今でも
彼の心に残る傷なのだと。
大学生の時にもう一度付き合い、
本気で私が心を注いでも
癒やせなかった傷なのだと。

これじゃうまくいくはずもないよ。

しかしそれを知った今でも、
私はあの嘘を後悔していない。
あの嘘は私なりに彼を傷つけたくなくて
ついた嘘だった。
嘘であったことを
今更Kには言えないし言う必要もない。

この時点で彼の余命は
(医師の言う通りなら)あとひと月半だった。
今後の彼の人生を考えても、
こんな昔の女とのつまらないやり取りで
心身を消耗させてはいけない。
私たちにはもうお互いを想う気持ちは
ないのだから。

もう終わりにしなきゃ。
私は返事を書いた。

まずは体調を整えて。
私に返事しないといけないとか
本当に気にしないでいいからね。
まずは御自分の身体のことだけ
考えて下さい。

いいねの赤いハートが付いて、
返事はもうなかった。
2週間後、KのFBに
緩和ケアに方針を転換することを決めたと
投稿があった。














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