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猫のために猫の好きな鉢棚を移動

我が家の三毛のセミ猫を見ていると、まるで自分を映す鏡のようだと思う。
イライラして母に怒鳴ることが多くなっている。
すると、ここひと月ほどセミ猫も外の猫に吠えるのだ。
そのうちに慣れて鳴かなくなるだろうと思っていた。
田舎の古い鬱蒼として広い庭である。我が家に後から来た麦わらのトンボ猫はセミ猫が家の中に招きいれたようなものだった。我が家にどこかの猫がやってくることはこれまで何度もあり、子猫の頃は庭に居ついて大人の猫たちと喧嘩して噛まれてケガしていたとはいえ、家の中にいれば、物理的に喧嘩は不可能だ。
ここひと月以上我が家に来ている灰縞のオス猫は人間が庭に出ると、ぴゅうっと逃げていくくらい警戒心が強いので、そうそう窓の外から挑発してくることもないだろうと思ったのだ。

ところが、この灰縞猫は人間には警戒しても、猫には強気なボス猫だったらしい。窓の外の鉢棚の上に乗って、窓の外で寝ようとする。それにセミ猫が怒り狂う。慣れるどころか、日増しに攻撃性が増して、窓を叩き、喉も裂けよとばかりに鳴き喚くようになった。そして、灰縞猫もそうまでされても、毎日のように懲りずにやってきてはそこで日向ぼっこしようとするのである。
案外ほかの猫の姿を見かけなくなったのは、この灰縞猫が自分の縄張りにして追い払ってしまったからではなかろうか。

しかし、そうはいっても、そこまでうるさく鳴かれては、おちおち猫も寝ていられない。数十分とは居座らず、去っていくのだ。それでも、セミ猫は毎日戦い、何なら窓や玄関から扉を開けて戦いに出ていこうとするので人間も気が気ではない。
鷹揚なボス猫がセミ猫を挑発しているとは思われず、寂しくてうちにやってくるのだとは思う。我が家にはもう二匹も猫がいる。その猫はどこかで去勢もされていて、エサももらっているか自力でどうにかできている。
ネットで調べても、今は猫の引き取りの募集であふれているので、そんな外に適応した猫までどうにかしてもらえるとは思えない。それでも、毎日来られると同情心が増してきて、セミ猫が敵視するほど、人間の良心も傷んだ。

やむなく、灰縞猫が鉢棚で遊ばないように、二つ棚を撤去することにした。
セミ猫が庭を見るのが好きだから、猫の目を楽しませようと園芸植物を窓辺に植えるようになったのだった。それなのに、よその猫が来るからと鉢棚を動かすのは気が引けて、全部は撤去しなかった。

横一列しかないと以前のように花鉢を蹴散らしてゴロゴロ転がれない。灰縞猫は棚の配置を変えたその日もやって来たが、香箱座りで居座ろうとしたものの、居心地はよくなさそうだった。

すぐに廃材で老いた父が作った木製の棚から降りて、地面の上で所在なさそうに座って陽に当たった。しかし、それでも、セミ猫は許せなかったようだ。

唸って吠えて、灰縞猫が視界からいなくなるまで許さない。何なら人間にはいないように見えても、まだ唸っている。

セミ猫は我が強い。この我の強さは飼い主の私に似たようだ。私もこうと決めると譲らないところがある。とにかく、絶対に許さず、戦うのだ。別段、相手がどうだから気に入らないということはないのだろう。そのボス猫はそう気が強そうにも見えない。ただ、自分より上に立たれるのが嫌なのだ。我が家の庭はたとえ外に出ることがままならなくても、あくまでセミ猫の縄張りであり、その縄張りではセミ猫に気を遣って過ごさなければならない。後でも先でも、勝手気ままに自分の縄張りで過ごされるのはセミ猫のプライドが許さないのである。

セミ猫にはセミ猫が認める世界があって、灰縞猫は今のところその世界観に合わない異物であるようだ。
ごろごろと目の中に入ったごみのように転がっていられては、視界から取り除くほかないのである。

セミ猫は何事もかまわないようでしつこい。ごはんなどトンボ猫に譲っているが、トンボ猫の方が図体がでかくなっても、生意気な態度で来られると必ず服従させようという意思が見える。いや、従えたいわけではない。やっぱり、自分の世界が壊されるのを恐れるのだ。

セミ猫はトンボ猫が来る前は人間が探してくれることをあてにして、寒いリビングで一匹で眠りこむことがあった。しかし、私が退院して帰ってからというもの、私がソファでうたた寝すればソファのそばで、パソコンをいじっていたら、その隣の棚で、必ず私がいる部屋で寝るようになった。
これは昼間私のことを付け回しているくせに、うっかり寝てしまうと、寝室にはついてこないトンボ猫とは対照的だ。

トンボ猫は人間がセミ猫を優先しているのを察していて、どうにか先輩猫だけいい思いをするのを阻止しようとしている。しかし、縄張りを守る努力をするまでには至らないようだ。どこか居候臭さが抜けない。

セミ猫が灰縞猫に吠えると、かわいそうにトンボ猫は飛び上がって驚いて椅子から転げ落ちてしまう。それでも、怖いものみたさがあるのか、後ろから窓に近づいて、そっと先輩猫と外猫のやり取りをみるのだった。決して先輩猫に加勢はしないが、外猫と仲良く交流しようという様子も見せない。すぐに窓から離れるあたり、トンボ猫はトンボ猫で我関せずの冷たい性格なのであった。優しくないのに変わりはないが、トンボ猫は今のところ、私に似ているのではないと思う。

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