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第一夜 生きているしくみを探ろう(2019.11.4)

当日の様子

 第一夜と言いつつ,実際は祝日の昼間に開催され,定員10名のところ7名の方がご参加。
 心理カウンセラー,教材出版社,医療機器関係商社,鉄工所,IT関係…というように参加者の皆さんのご職業&ご経験は多種多様。
 自然科学について学ぶ機会が欲しかった,仕事をする上で化学の知識が必要だった,私YUMが講師だから興味があった…というように,参加理由も多種多様。
 どの受講生の皆さんも意欲的で,私が提示した課題や実験に積極的に取り組まれていた。
 時には予想だにしない意見も出たので,講師である私の方が驚かされ,若干背筋に汗をかいたくらい💦
 それでも和気あいあいとした雰囲気の中で,受講生の皆さんが一つ一つの事柄について一生懸命考え,深く学ばれていた。

「生きている」とはどういうこと?

 オープニングで行った「生きているとはどういうことか?」を考えてもらうところで,「呼吸をする」「食べる」「心臓が拍動する」といったご意見が出るくらいかな?と思いきや,「働くことが必要」とか,社会的な話や哲学的な側面からもご意見が出た。
 今回の授業では,酵素のはたらきから生きているしくみを考えた。

大根とオキシドールの実験

 大根中に含まれるカタラーゼという酵素の性質を確かめるために,次の①〜④の操作をした。
 ① 生の大根を水に漬ける
 ② 生の大根をオキシドールに漬ける → 酸素の泡が発生
 ③ ゆでた大根をオキシドールに漬ける
 ④ 一晩酢漬けした大根をオキシドールに漬ける

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 この実験において,発生した酸素の泡を見やすくするために,①〜④にそれぞれ洗剤を2−3滴加えている。ところが,その洗剤についても,受講生の皆さんは予想以上に深く考えられていたことに驚いた。
(当日はこの洗剤のはたらきを十分説明していませんでした🙇‍♂️)

<ウラ話>パイナップルに含まれる酵素

 今回は大根を実験材料にしていたものの,当初はパイナップルを使う予定でいた。
 次の方法でいろいろ試行錯誤したものの,思ったようにうまくいかなかった。
 ①  生のパイナップルをゼラチンゼリーの上に乗せる → ゼリーが融ける
 ②  ゆでたパイナップルをゼラチンゼリーの上に乗せる
 ③  生のパイナップルを寒天の上に乗せる
 ④  ゆでたパイナップルを寒天の上に乗せる
 パイナップルにはタンパク質を分解する酵素・プロメラーゼが含まれている。
 そうすると,タンパク質でできたゼラチンがプロメラーゼによって分解され,ゼリーが融ける。
 一方,アガロースという糖でできた寒天には何も作用しない。
 使ったパイナップルに問題があったのか?ゼラチンゼリーや寒天のつくりかたに問題があったのか?
 今も頭に引っかかっている。
 それにしても,実験を繰り返し,その都度胃の中でパイナップルと寒天とゼラチンゼリーを処理するという日々がどれだけ続いたことか…(笑)

酵素の正体は?

 酵素=それ自体は変化しないが,物質の化学反応を速めるタンパク質
※一般に,それ自体は変化しないが,物質の化学反応を速める物質を触媒という。

酵素と化学反応

化学反応をする上で,酵素には3つの特徴がある。
① 基質特異性
 酵素は種類によって作用する物質(=基質)が異なる。
 例えば大根の場合なら,カタラーゼという酵素が含まれている。
 これが,オキシドール中の過酸化水素を水と酸素に分解するようにはたらきかけるので,過酸化水素が基質となる。
 実験では水にも漬けたが,水は基質ではないということである。
 酵素はさまざまな形をもつタンパク質で,特定の形と合う基質と一旦結合することで,作用が起こる。
 そのため,酵素の種類によって基質は異なるのである。

② 最適温度がある
 一般に,酵素が最もよくはたらく温度(=最適温度)は35〜40℃である。
 あまりにも温度が低すぎると,はたらきにくくなる。 
 逆に,温度が高すぎると,タンパク質自体の構造が変わり(=変性という),酵素としてのはたらきを失ってしまう(=失活という)。
 今回の実験では,ゆでた大根をオキシドールに漬けても酸素の泡は発生しなかった。
 これは,大根をゆでたことによって,カタラーゼが失活してしまったからである。

③ 最適pHがある
 酵素が最もよくはたらくのが酸性,中性,アルカリ性のいずれになるかは酵素によって異なる。
 つまり,最適pHがある。
  ※pH=酸性・中性・アルカリ性の程度を表す目安の数値
   酸性・・・7未満,中性・・・ちょうど7,アルカリ性・・・7より大きい
 今回扱った大根のカタラーゼの最適pHは7である。
 今回の実験では,酢漬けにした大根をオキシドールに漬けても酸素の泡は発生しなかった。
 これは,大根を酢漬けにしたことによって,カタラーゼが失活してしまったからである。
 ちなみに,人の体の中に含まれる消化酵素はこんな感じ。
  だ液アミラーゼ→だ液自体が中性なので,最適pHは7
  ペプシン→酸性の胃液の中ではたらいているので,最適pHは2〜3
  トリプシン→アルカリ性のすい液の中ではたらいているので,最適pHは8〜9

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体の中ではたらく酵素

① 食べ物の消化
 これ自体が化学反応であって,多くの消化酵素がはたらいている。 

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② 呼吸に関わる酵素
 ここでいう「呼吸」とは,細胞がブドウ糖と酸素を用いてエネルギーを生み,二酸化炭素と水を放出する「細胞呼吸」をさす。
 細胞呼吸には解糖系・クエン酸回路・電子伝達系(酸化的リン酸化)と呼ばれる3つの過程があり,多くの種類の酵素が関わっている。

③ 細胞の増殖などでも,DNAを合成する酵素などがはたらいている。

産業で使われる酵素

いろいろとあるものの,ここでは身近に感じるものをつらつらとご紹介。
①  甘味料の製造
 酵素アミラーゼなどによってデンプンをブドウ糖や果糖(最も甘い糖)に分解

②  牛乳の加工
 牛乳を飲んでお腹がゴロゴロする原因となる物質である乳糖を,ガラクトシターゼという酵素によって分解する

③  チーズづくり
 レンネットというタンパク質を用いて,牛乳中のタンパク質であるカゼインを分解する

④  酵素洗剤…多種多様な酵素が含まれ,それらのはたらきを最大限に活用している。
 プロテアーゼ→タンパク質汚れを分解
 アミラーゼ→炭水化物の汚れを分解
 リパーゼ→油汚れを分解
 セルラーぜ→木綿繊維内の深いところにある汚れをあぶり出す
 ペルオキシターゼ→洗濯時の色移りを防止し,色素を漂白

講座を終えて〜YUMのつぶやき〜

 この教室を開いた会場の店員さんからの一言をきっかけにして始めてしまったものの,驚かされたことが多く,私自身も充実した2時間になった。
 とにかく受講生の皆さんのヤル気が凄い!
 自らの意思でこの講座に参加されていて,何かを学ぼう,何かを得ようという姿勢がひしひしと伝わってきた。
 受講生の皆さんお一人お一人がお持ちの背景から,多種多様かつ意外なご意見も出たりした。
 本当に学ぶ雰囲気に満ち溢れた2時間になった。
 受講者お一人お一人にとってご満足いただけたようで。
「学生時代にわからなかったことが,大人になって理解できることは快感につながった」
「この講座をまた受けてみたい。次回はいつやるか早めに教えてほしい」
というようなお言葉までいただいた。

参考文献

「Essential細胞生物学」(アルバーツ著,中村桂子/松原謙一監訳,南江堂)

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「図解 微生物学入門」(掘越弘毅編,井上明/中島春紫共著,オーム社)

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