創作の愉しみ

 それは確か3~4年前のこと。突然ドラマのシナリオが書きたくなった。当時放映されていたNHKの朝ドラ「おかえりモネ」を見ているときに、それは強烈な思いとして押し寄せてきた。主人公はじめ登場人物が抱える様々な屈折、夢、葛藤など、紡がれる物語。自分もそんな世界を創ってみたい、と強く思ったのだ。
 もともと飽きっぽい性格である。ピアノやギターの演奏、週末の瞑想など、少しハマって放棄したものは数知れない。今回もそうかも、と思いながら、シナリオライティングの通信教育に申し込み、届いた山のような教材を少しずつ読み解きながら、与えられたテーマに沿う形での作品作りにチャレンジした。
 中学生のころ、文芸部に所属して見よう見まねで小説を書いたことがあったが、高校生になって運動部に所属し、大学生になってからは学術系のサークルで論文書きに没頭、社会人になってからは木で鼻をくくったような当たり障りのない文章作成術を習得し、どんどんクリエイティブな分野からは遠ざかっていた。なので、シナリオ学校の課題とはいえ、自分の頭で考えた物語を言葉にすることは、楽しく、新しい自分を発見するようで嬉しかった。
 ある日、「別れ」というテーマでショートストーリーを創れ、という課題に対して、私は商船大学で学んだカップルを題材にし、大学を卒業後、港湾会社に就職し、陸から船を見送る仕事を選んだ彼と、航海士になって海に生きることを選んだ彼女の別れを描いた。所定の字数に収めることがことが必要だったので、肝心の2人の別れのシーンが十分書けなかった。物足りない気分で原稿を投函した日の夜、眠りにつこうと寝室で横になっていると、私が描いた彼と彼女が続きを書いてほしい、とふたりして私に訴えてきた。これには自分でもビックリした。
 そのとき、創作とは、自分の中に別の人格の人間を住まわせることなのだ、自分が創造した人物の人生を自分も楽しめるのだ、なんと愉快なことか、と思った。
 以来、3年が経った。習作は20篇を越えた。巧拙はともかくとして、このなかで私が創りあげた老若男女さまざまなキャラクターたち。好きな者も好きでない者もいるが、彼らは間違いなく自分の分身たちだなあ、と感じるのである。
#シナリオ #脚本

 

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