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子どもたちの学びを考える

「小児科医湯浅正太の診察室」、今日は「子どもたちの学びを考える」というテーマで、「さくらんぼ教室」の伊庭葉子(イバ・ヨウコ)さんがゲストです。
 
伊庭さんが務めていらっしゃる「さくらんぼ教室」さんは、勉強が苦手な子、友達づき合いやコミュニケーションが苦手な子、発達障害をもつ子どもたちのための教室です。現在は2才から社会人までの幅広い年齢層の生徒さんが「さくらんぼ教室」さんに通っています。
 
子どもたちへ学びの支援を行う「さくらんぼ教室」の伊庭さんに小児科医湯浅正太が聞きます。 

1)支援の現場から 「さくらんぼ教室」さんのご紹介
 
湯浅:「さくらんぼ教室」はどのような活動をされていらっしゃるのか、詳しく教えていただけますか?
 
伊庭さん(以下、敬称略):
㈱Grow-S代表の伊庭と申します。本日はありがとうございます。
私たちが運営するさくらんぼ教室は、子どもたちが「一人ひとりに合わせて」学べる学習塾で、個別学習とソーシャルトレーニングを行っています。開設から33年目の現在、千葉・東京・神奈川の14教室に2才から社会人まで3000人が通っており、どこもにぎやかで楽しい教室です。生徒たちは、発達障害などがありゆっくり発達していく子もいれば、通常学級と特別支援のはざまで「ちょうどいい学習」がなかなか見つかりにくい子も多くいます。また学力は高いけれど学校生活の中で生きづらさを感じている子もいて、いろいろな子どもたちが関わりながら楽しく学んでいます。
 
さくらんぼ教室の特長を5つ紹介します。

  • 子どもたちの「年齢」「学年」にとらわれない個別の発達段階・学習の状況、得意・苦手に合わせた多様な学習カリキュラムや教材があること

  • 一人ひとりの個性や特性に合わせた指導法で、その子に合う学習方法を一緒に見つけていけること

  • 同年代の友達と関わりながら日々の生活に役立つソーシャルスキルトレーニング学べること

  • 子どもたちを理解し応援するスタッフや先生方が一人ひとりの進路選択の道標となり、保護者の方もあわせてサポートできること

  • 学齢期の楽しい学びを継続でき、生徒たちが社会人になっても学び合える居場所となっていくこと

です。

さくらんぼ教室での学習を通して子どもたちに「自分にはできることがたくさんある!」「他の人と違うやり方でもいい!」「今苦手なこともいつか変わっていく可能性がある!」と感じてほしいと思っています。
 
このほか会社として、公的機関と連携した学校支援と先生方への講演・研修、教材の出版、発達障がい理解啓発活動、にも取り組んでいるほか、今年度から通信制高校のサポート校「学びサポートセンター高等部(本八幡校・三鷹校)」も開校しいろいろな高校生の学校生活を応援しています。
 
2)学びの現状と課題
 
湯浅:伊庭さんたちから見た「支援が必要な子どもたちの学びの現状と課題」を教えていただけますでしょうか。
 
伊庭:「発達障害」ということばとともに、得意なことと苦手なことの差が大きい子どもたちがたくさんいることが広く知られるようになり、公教育の場でも支援が広がってきました。さくらんぼ教室にも、学校でいろいろなサポート、合理的配慮を活用して楽しく過ごしている、給食が美味しくて友達と遊べるから学校大好き!という子どもたちもたくさんいます。
その一方で、やはり学校は集団生活の場、集団授業の場であり、そのサイズや学び方が合わない子もたくさんいます。学校生活の中で「大勢の人が苦手で、疲れてしまう」「文字や文章を読むペースと書くペースが他の子とちがう」「言われていることは理解しているけれど、自分の言葉で説明することが苦手」など一人ひとりちがう子どもたちの「特性」「個性」が十分に理解されその子に合う支援が受けられるようになるまではまだ時間がかかるように思います。毎日学校に行くこと、宿題をやっていくこと、多くの子どもたちにとって「当たり前」に見えることが「当たり前ではない」子がたくさんいます。やりたくないわけでもやる気がないわけでなく「頑張りたいけど頑張れない」「ちゃんとやろうと思っているけどやり方がわからないで困っている」子どもたちの心が理解され、一緒にやり方を考え、応援してくれる大人の存在が公教育の場にももっと必要だと思います。
 
3)どんな子どもたちがいるのですか?
 
湯浅:支援が必要なお子さんの学びを支援するにあたり、どんな課題がありますか?
(さくらんぼ教室にはどんな子どもたちがいるのか、教えてください)
 
伊庭: 3000人の生徒たちは、個性派揃いで素敵な子どもたちです。ちょっと教室をのぞくと、お気に入りのぬいぐるみと一緒に学習している子、授業中におもむろにスマホで方角を調べている子、いま年度末で学校のスケジュールの変更が多いのと花粉症が重なって調子が上がらない子などいろいろです。最近私が出会ったのは、「タネの発芽」について研究をし大きな賞を受賞した小学生の博士君。おじいちゃんが食べたスイカの種をまいたら大きなスイカになったことをきっかけに種に興味をもち、スイカ、トマト、メロン、オクラ・・・・身近な果物や野菜の小さな小さな種をたくさん調べて毎日コツコツひたむきな研究を続けました。学校生活では苦労もあるけれど、好きなこと、興味があることにとことん集中し夢中になれる、ことを教えてくれた博士君でした。また日本の文豪(夏目漱石、森鴎外とか)の生涯とその作品について細かく調べて「文豪図鑑」を作っている高校生がいたり、ふだんは多くは語らない美大生が卒業制作に色鮮やかな作品集を仕上げて見せてくれたり、家族のために毎晩夕食を作ってその写真を送ってきてくれる社会人生徒さんもいます。
みんな自分らしさを大切に頑張っている人たちです。4月2日は世界自閉症啓発デー、シンボルカラーの青にちなんだライトアップなどのイベントが全国で行われ私たちも参加する予定です。個性を強みに活躍できる場所がもっと広がっていくとよいと思います。
 
 4)どうして「さくらんぼ教室」を始めたのか?
 
湯浅:さくらんぼ教室は1990年に地域のボランティア活動から始まったそうですが、どうして「さくらんぼ教室」を始めようと思ったのですか?
 
伊庭: 当時の養護学校(今の特別支援学校)に通う子どもたち、保護者の方との出会いがきっかけでした。当時は障害をもつ子どもたちのお稽古事や居場所は今に比べてずっと少なかった時代でしたが、保護者の方は「学校以外にもうちの子に合わせて学習できる場がほしい。できること・わかることが増えることは子どもたちが幸せに生きることにつながるはず」と切望され、公民館などの場所取りをしてくださいました。子どもたちと一緒にお勉強を始めると、座ること、鉛筆を持つこと、線を書くこと・・・一つひとつすごく時間がかかりますが、コツコツ続けていくことで少しずつ必ずできるようになるんですね。「できないこと」が「できるようになる」、その過程の尊さを子どもたちから教わりました。「障害があるからできない」のではなく「その子に合わせて学習できる場が少ないから、できないままになってしまう」のであればそれはもったいない事だと思い、もっと学習の場を広げていきたいと思いました。「さくらんぼ」は、当時遠方からでもお子さんの手をひいて一生懸命通ってくださった親子をイメージしてつけた名前です。
 
 5)日本社会は子どもたちの学びにどう向き合っていくべきか?
湯浅:学びの現場を見てこられて、今後の日本社会は子どもたちの学びにどう向き合ったらいいと思いますか?
 
伊庭: 学校も社会も「多様性」「インクルーシブ」をめざして成長しようとしていますね。不安定な社会情勢の中でその人がその人らしくいられる社会のイメージはまだぼんやりしていて個々の意識が追い付いていないように感じます。子どもたちの学びに関わる私たち大人(親も先生方も)は「一人ひとりの違いがあっていい」というメッセージを子どもたちにもっとポジティブに心を込めて語り、伝え、一緒に行動していくことが必要だと思います。色々なペースで発達する多様な子どもたちの「学び」は、学校教育で終了するものではありません。その先の長い人生においてもたくさんの人と関わりながら継続的に学び、自立・幸せにつながることのできる多様な道筋を作っていくことが求められていると感じます。
 
湯浅: どうもありがとうございました。本日のゲストは、「さくらんぼ教室」の伊庭葉子(イバ・ヨウコ)さんでした。(拍手)


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