こうやって心を表現できる子どもの人生は変わる
こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。
今日は「こうやって心を表現できる子どもの人生は変わる」というテーマでお話ししたいと思います。
当たり前ですが、体の表面は外から見えても、心は外からは見えないですよね。皮膚の擦り傷は見えますが、その人の心の様子は直接確認することはできません。
でも、僕たちは「人の心」を知ろうとします。その人が嬉しい気持ちなのか、悲しい気持ちなのか、その心を確認するために、僕たちは相手の表情や仕草、言葉のトーンなどを気にします。そうやって、楽しく社会生活を営むものです。
だからこそ、僕たちにとって表情を豊かに表現できるかって、とても重要なことなんですね。
では、逆に考えてみましょう。心を探るヒントとなるその表情が乏しい人についてはどうでしょう。他人からすると、その人の心を探ることが難しくなります。「この人は喜んでいるのかな、悲しんでいるのかな、それとも、怒っているのかな」、そんな風にその人の心が分かりづらい状況になるわけです。
そんな、心が分かりづらい人とのコミュニケーションはうまくいかないものです。どこかで理解の不一致が起こって、お互いに嫌な思いをしてしまう。いつも人間関係でうまくいかなくなってしまう方には、そういった「心が分かりづらい」特徴があるものです。
ここまで、「心を外に示すために、その心を表現できることは大切」ということをお話しました。
では、ここで考えて頂きたいのは、親の表情です。親の表情が乏しいと、誰が困ると思いますか。
それは、子どもです。
子どもたちは親の表情を見て、他人の心を学びます。どんなシチュエーションで、人はどんな心になるのか。
親が喜んでいるシチュエーションでは、親が笑顔を示す。親が悲しんでいるシチュエーションでは、それに見合った表情を親が示す。そうやって子どもたちは、親の表情と心を学びます。そういった経験を通して、どんなシチュエーションでどんな表情を示したらよいのかということを理解するわけです。
このように、他人の心を学ぶうえで、親の表情の豊かさが大切ということなんですね。
色々なご家族を見ていただくとわかると思います。親御さんが表情豊かな家庭では、感情表現が上手な子どもが育ちます。喜びの表現、悲しみの表現が実に豊かです。
子どもたちの発達を支援する事業所さんを見ていても分かります。スタッフが豊かな表情を示しながら子どもたちに関わってくれている事業所では、子どもたちがイキイキと発達していく。
そのことを理解するからこそ、大人の豊かな表情が溢れる環境で、子どもたちが心の表現方法を豊かに身につけるって、とても大切なこととわかりますよね。
どうでしょう。わかっていただけますか。
表情や仕草といった表現は、「心の声」なんです。
心の声をいかに柔軟に表現できるか。その重要性を理解していれば、「踊り」「運動」、そういった表情を豊かに学ぶ経験を子どもたちに提供することがどれだけ大切なのかが理解できると思います。
いわゆる「勉強」ができても、自分の気持ちを表現できないと社会では辛い目に遭います。その人自身は「相手に自分のことをもっとわかってほしい」と思っても、他人にその気持ちを伝えることができないと、生きづらさが生まれるんですね。
でも、自分の心を相手に表現できないその人が悪いかというと、そうとも言えません。その人のせいというよりも、子どもの頃の経験不足という見方もできるからです。
机にかじりついて、教科書や参考書とにらめっこしていても、心の声を上手に表現できるようにはなりません。大人が人の発達の中で何が重要であるかを理解できていれば、表現を知る機会を子どもたちに提供するはずです。
そうやって、大人の価値観、親の価値観次第で、その子の生きやすさって変わるんです。
でも、一方で、子どもの生きやすさを、親のせいにもできない現実があります。
親自身も、人の生きやすさの本質を知らない、という現実もあるからです。「勉強ができれば、将来が楽しく薔薇色になると教えられてきたのに・・」なんて親もいるものです。
「心の表現方法を学ぶことが、どれだけその子の人生にとって有利に働くかをもっと早くから知っていれば、子どもたちにもっと違った経験を提供したのに」、そんな風に後悔する親御さんも実際にいるわけです。
そういうことを知っている僕としては、「この時代」の「この社会」の価値観を考えます。社会の中にある偏った価値観に翻弄されながら親が必死に生きる。それによって子どもたちの人生も左右される。そういうことがあるんだよなあ、と思うんですね。
だからこそ、こんな放送を通して小児科医が知る世界を共有したいと思うわけです。子どもの頃をどんな風に過ごすと、大人になった時にこんな大人に育ちますよ。そういった知識を社会に発信しながら、子どもの生きやすさ、親の生きやすさをサポートできたらと思います。
今日は「こうやって心を表現できる子どもの人生は変わる」というテーマでお話ししました。
だいじょうぶ、
まあ、なんとかなりますよ。
湯浅正太
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて:https://yukurite.jp/)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。
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