バルナックライカが気になる(1)

長い修理旅行に出ているローライ35S。順番が来るのをゆったりと待つつもりではいますが、フィルムカメラで写真を撮りたい気分が高まっているときに、出かける際に気軽に持っていけるものがないというのは寂しいものです。そんなときにぼんやりとネットで古いフィルムカメラのことを見ていたら、ふとバルナックライカが目に飛び込んできました。

私は今までに細々とローライやハッセルブラッドのフィルムカメラを使ってきましたが、ライカには手を出さずにいました。興味がないということではないのですが、ボディもレンズも値段が高いのと、いかにも「人気者」的な雰囲気をどこか敬遠する思いがあったからです(野球で言えばアンチ巨人とかアンチ・ヤンキース、サッカーならレアル・マドリードはちょっと、といった気持ちと似ているかもしれません)。M6や最近の機種で正面についている赤いロゴマークも、見せつけているようで苦手な感じがしていました。

ここで私が思い浮かべていたのは、「M型ライカ」のことです。ライカのフィルムカメラでは、他にもM型と比べるとずっと地味な一眼レフのR型があることは知っていましたが、M型よりもっと昔のレンジファインダー、通称バルナックライカのことはほとんど何も知識がありませんでした。でも、最近になってふとバルナックライカを目にしたとき、「これは使ってみたら面白いかもしれない」いう予感が湧いてきました。なぜそう感じたのか、あまり上手くは説明できないのですが
・シンプルでゴツッとした外観が格好よく見えた。
・モデルによっては第二次大戦以前のものもあり、約80年も前のカメラが今でも十分現役で使えるというところに惹かれた。
・M型ライカよりも小型で軽量というところがよかった。薄いレンズや沈胴式レンズを使えば厚みもかなり抑えられそう。
・使い方にはいろいろ独自の作法はあるけれど、M型ライカよりもずっと安価に入手できる。
といったあたりが主な点だと思います。それで、バルナックライカは自分のものとして入手するほどのものだろうかと考えてみることにしました。

私が主な使い方として考えているのは、できればランニング(さすがにバルナックライカでも、走るときに気軽に持ち出せるほどは小型ではないかもしれませんが)、あとハイキングや山歩きの際に持っていき、気に入った景色をスナップ撮影するというものです。そんなときに、昔のフィルムカメラのシャッターを切ることができたら楽しいだろうなと思うのです。なので、小型・軽量・頑丈というのが重要な要素となります。

ローライ35は、こうした用途にぴったりでした。ポケットに入るぐらいの大きさで軽量(見た目以上の重さはありますが)というのは大きな強みです。ただ、ローライ35はピントを合わせる機構がない目測カメラです。速写性はありますが、自分でピントを合わせる楽しみを感じることができません。その点を、バルナックライカだったら上手くカバーできるかもしれません。

さすがはライカだけあって、M型ほどメジャーではないにしても、バルナックライカの各モデルの変遷や特徴から初心者が購入する際のおすすめ機種まで、ネット上にはさまざまな情報が出ています。それらを見て、また「新バルナック型ライカのすべて」(この本にはカメラ本体とレンズについて相当詳しいことが書かれています)という本を読み、自分が使いたい用途に合いそうなのはIII(DIII)かそれよりも後のモデルだと考えるようになりました。

IIIからは、スローシャッターと視度調整の仕組み、そしてネックストラップを取り付ける輪っかがカメラ本体に装備されるようになります。私の場合、首からかけて使うことが多いと思われるのでネックストラップは必須(ストラップ付のレザーケースにカメラを入れればなくても済むのかもしれませんが)、バルナックライカの小さなファインダーでもピントを合わせやすいよう、視度調整もほしいところです。一方、後続のIIIa以降はシャッターの最高速度が1/1000まで上がりますが、そこは無くてもどうにかなりそうに思います。以前から使っているローライ35やローライフレックスも最高速度が1/500で、あまり不自由を感じていないからです。だとすると、「III(DIII)もしくはそれ以降」のモデルは、小型・軽量・頑丈の要素をどれほど持っていそうでしょうか。

1.大きさ・重さ
III(DIII)、IIIa, は横幅133.6mm、縦67.8mm、奥行き30mmとのこと。これがIIIbになると縦が少しだけ高くなり、さらにIIIcでは横幅と縦の高さが136.3mm x 70mmとまた少し大型化するようです。「MrLeica.com」というサイトの「バルナックライカ比較」というページにあるデータを見ると、重さはIII(DIII)が不明、IIIaが410g, IIIbとIIIcが428g(少し大型化したIIIcが同じ重さというのはよくわかりませんが)、IIIfが430g, 縦のサイズがさらに少し大きくなるIIIg(136mm x 74mm )は454gとあります。

こうしたモデルによる微妙なサイズ・重さの違いが、実際に手に取った時にどれほど違って感じられるのかはよくわかりません。ただ、これがM型ライカになると、M3が138mm x 77mm x 33.5mm、重さは595gあります。そちらとの違いは、大きさの面でも重さの面でもはっきり感じられると思います。

2.材質
IIIaまでは職人が1台ずつ「板金加工」して形を整えたボディ、IIIbは基本板金加工ですがファインダー部分のみ金属の型を使った「ダイカスト製」、IIIc以降は全体がダイカスト製となります。先ほどのモデル間の大きさ・重さの違いも、IIIfまではおおむねこの作り方の違いによるもののようです。ダイカストは、ローライ35でも後期の廉価版が出るまでは使われていた素材だったかと思います。

板金加工よりもダイカストの方が堅牢性が増し精度も上がり大、量生産もできるようになる、と利点がたくさんあったようです。そう考えると、より頑丈そうなIIIc以降のモデルの方が私の使用目的には合っている気がします。ただ、IIIcは、第二次大戦で物資不足になっている中で作られたものも多くメッキ処理などがイマイチな機体があると読みましたので、実際にはIIIfということになるのでしょうか。

ただ、職人が1台ずつ形作ったというIIIbまでのいわゆる「板金ライカ」には、何だか作り手の思いがダイカスト製のカメラ以上に込められているのではないかという気がします。板金ライカとはいえIIIaは9万台も作られたと言いますから、「1台ずつ丹精を込めて」なんてことはない、と考える方が理にかなっているのでしょうが。それでも板金ライカというものに惹かれてしまうのです。あと、IIIfは第二次大戦が終わってから発表されたモデルですが、IIIbまでのモデルは「戦前」に作られています(IIIcは戦前から戦後にかけて生産)。80年も前に作られたカメラで現代を写すことができるというのは、それだけで浪漫を感じます。この「戦前モデル」というのに、強烈に惹かれます。

3. レンズ
バルナックライカは(M型などもそうですが)レンズ交換できるというのが、ローライ35やローライフレックスとの大きな違いです。レンズを変えれば1台のボディで色々な焦点距離の写真を撮ることができるというのはとても大きな利点ですが、一方で「レンズ沼」と言われるように高価なライカのレンズにずぶずぶとはまってしまうと、すさまじい勢いでお金がなくなっていきそうです。私の懐事情ではとても対応しきれません。私がライカを使うのにちゅうちょしてきた理由のひとつです。

バルナックライカはLマウント(最近デジカメでもライカのLマウントという紛らわしい名称が使われるようになったので、バルナックライカのレンズはL39マウント、などと呼ばれるようになっているようです)のレンズを使います。M3よりも後に発売されたIIIgを除けば、バルナックライカのカメラ本体に付いているファインダーは50mmのみ。だとすると必然的にまずは50mmの標準レンズを選ぶことになります。どうにか手が出せそうなのはエルマーかズマールでしょうか。どちらも沈胴式レンズで重さも200g未満のようなので、カメラに装着しても持ち運び時のサイズが嵩張るようになったり重量がぐっと増したりすることはなさそうです。標準レンズ1本、あるいは他社がL39マウントで出した手ごろな値段の広角レンズをもう1本準備することができれば、私は十分に楽しめると思います(ローライ35を使っていて山や海辺でよく感じるのが、「もっと広角に写したい」ということです。バルナックライカで、高額すぎない範囲の広角レンズを使うことができれば、私にとってはとてもうれしいことです)。

まとめ
このように見てくると、機能だけを考えればIIIf, 個人的な好みを加えるとIII(DIII)、IIIa, IIIbのいずれか、というのが、いちばん私の使用用途に合いそうな気がします。何だかもう買うことを決めているような書きぶりですが(笑)、まだそこまでは断言できません。あとはやはり、実物を見てみないと。何年ぶりだろうというぐらい久しぶりに、カメラ屋めぐりをしてみようかと思います。


(続き)


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