基盤システムとは何か、中長期システム投資の観点から考える
最近、技術経営に入門している。技術者として感覚的に当たり前と思って実践していたことでも、経営の視点で構造化・言語化するまでには距離があり、苦戦しつつ頑張っている。
その修行として思考を雑にアウトプットするようにしてみる。なにか答えを見出すわけでもないし、まとまりもないし、すぐに言ってること変わるかもだけどご勘弁を。
なお、前提として竹内さんの「CTOの頭の中」シリーズの考え方をベースにしている。
初回のテーマは基盤開発。
プロダクト規模が大きかったりマルチプロダクトだったりして、複数のフィーチャーチームがあり、それらを下支えする基盤チームがあるような組織を考える。チームトポロジーの言葉でいえば、ストリームアラインドチームがあり、それを支えるプラットフォームチーム/コンプリケイテッド・サブシステムチームがある感じ。
そのような環境で、基盤チームが担う「基盤システム」に対する期待値はブレがち。ふわっと中長期的な投資として語られることも多い気がするけど、本当に基盤=中長期なのかを整理してみる。
まず結論
基盤システムというのは、「複数のフィーチャーチームの付加価値生産性を改善するシステム」と考える。ここに時間軸の観点は盛り込まれないのがポイント。
中長期のシステム投資とは?
システム投資とは、P/L を生み続ける B/S をつくる行為である。ここで重要なのは、P/L に変換される B/S ではなく、P/L を生み続ける B/S という点。つまり、あらゆるシステム投資は中長期的な投資回収を期待するはず。
その上で、特に中長期的なリターンを主眼とするものを切り出すと、次のように分類できる。
システム開発効率の維持・改善(G/P最大化)
リアーキテクチャ
自動テスト
ソフトウェアアーキテクト(≒きちんと設計をしてコードを書く)
それ単体では今すぐにアウトカム(≒P/L)を生まない開発
ミドルウェア(ID基盤など)
プラットフォームエンジニアリング
チームの学習効率改善(データ分析整備など)
逆に短期的な視点でのシステム投資とは、今すぐにアウトカム(≒P/L)を生む開発であり、以下が挙げられる。
売上(を構成するファネル)の改善(Revenue改善)
新規機能
SEO改善
運用効率の改善(Cost改善)
オペレーション型化
システムパフォーマンス改善
中長期=間接的な価値提供、短期=直接的な価値提供、とも整理できるかな。短期として整理したものも、本質的には根雪的な中長期のビジネス貢献を前提とするはずでやっぱり違和感があるけど、まあ一旦この整理で進んでみる。
基盤=中長期ではない
こう整理すると、「中長期的な仕込みをするのは基盤」というように時間軸で切り分けるのは筋が悪そう。
各フィーチャーチームは、収益性の高いプロダクトを作り続けるチームである。主たる責務が「P/L生産効率の良いB/Sの積み上げ」であるとも言える。そのためには当然に中長期リターンを目的とする開発も含まれる。
いきなりすごく具体な例を出すと、「ユーザーの行動ログを設計して収集する」という開発は、それ単体ではアウトカムを生まないが、そこから得られたデータを元に「チームの学習効率改善」にアプローチすることで、後続の施策と合わせて中長期的なアウトカムを最大化する。
逆に基盤チームは、「フィーチャーチームの有限なG/Pをいかに効率よくアウトカム(=P/Lインパクト)に変換できるか」に責務を持つと考えられる。つまり、基盤チームが筋の良いシステムを提供するほど、フィーチャーチームは少ない開発で(=B/Sを積まずに)価値提供ができるということだ。B/Sを積むということは資産と同時に負債も積んでいるので、できる限り少ないB/Sでアウトカムを生めるならそのほうがよい。
こちらも、例えば「ID基盤のパフォーマンスを改善する」という開発は、ID基盤を利用するプロダクトにおけるサインアップの離脱率改善に寄与し、直接的に(短期的に)アウトカムを生む。
このように、プロダクトと基盤には時間軸の違いはなく、実際に異なるのはプロダクト/ドメイン的な範囲である。
だからなんなのか
「フィーチャーチームも自律的に持続可能なソフトウェア開発をしよう」「基盤チームも直接的にアウトカムを生む視点を持とう」みたいな話はもちろんありつつ、役割分担の難しさに示唆があると思う。
つまり、フィーチャーチームと基盤チームの依存関係を前提として、同じ時間軸でプロダクト開発をする中で、戦略機能をどう整合性を保ちつつ分担するか。アウトカムとG/P、短期と中長期、といった観点を誰が責任を持って盛り込むか。誰がそこに非連続な成長を臨んだ魂を込めるか。みたいな体制を思想を持ってつくらなければならない。
次回はこの戦略機能の体制について考えたい。
当たり前のことしか言ってないんだけど、視点を変えて整理すると発見があっておもしろいね。