きねやのMUTEKI足袋

池井戸潤さんの小説「陸王」(ドラマは見てません)に出てくるランニング足袋の参考にされたという、きねやのMUTEKI足袋。物語の"シルクレイ"のような夢の素材は使われてませんが、伝統の足袋メーカーが製作したランニング用の足袋です。4年ほど使ってきたので、感想などをレビューします。

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このMUTEKIは、製品説明に

日本伝統の老舗足袋メーカーの技術と、 プロベアフットランナーの経験をもとに共同開発を行い、 1つ1つ手作りで仕上げた、世界に誇れる 日本発ベアフット用ランニングシューズです。

とある通り、ソールが5ミリしかない、極めて裸足感覚に近く走れる足袋です。足袋という名前の通り、親指と人差し指の間に切れ込みが入っていて、必要な際に指の力をかけやすくなっています。

このMUTEKIを使う際は、サイズ選びが非常に重要です。公式サイトには

裸足で履かれる場合 / つま先の一番長い所からかかとまでの足実寸より5~7mm+したサイズをお選びください。
靴下を履いて履かれる場合 /      〃
足実寸より7~15mm+したサイズをお選びください

と案内があります。私の記憶が正しければ、自分が購入した数年前はこの実寸プラス何ミリという表記がもう少し小さかった気がします。裸足の場合5ミリ、靴下を履く場合10ミリといった感じではなかったかなと。その後、もう少しゆったり目の方が履きやすいというユーザーの声が結構届いたのかもしれません。

かくいう私も、実寸より5ミリ大きいサイズを通販で購入し、履き始めてから「プラス1cmにしておけばよかったかな」と思った中の1人です。もう外を走っていたので、返品やサイズ交換などはしませんでしたが。

自分の中の評価では、MUTEKIの強みは軽いこと、薄くて持ち運びに場所を取らないことです。重さは180gほどです。一方で、普段しっかりとソールに守られたシューズで走っている人にとっては、MUTEKIは履く場所を選んだ方がいいシューズだとも感じます。

走る前に近場で歩いてソールの薄さなどを確かめ、多少は感覚をつかんでいたので、地面のちょっとした突起や石ころの硬さ、衝撃が足の裏にビンビン響いてくることは大体予想の範囲内でした。ビブラムは履いたことがないので比較できませんが、ソールにはクッション性もなく、まさに裸足に近い感覚です。もともとそういう触れ込みの製品なので、実際に履いてみての好き嫌いや足裏が耐えられるかどうかというのは個人差があるにせよ、この点は製品紹介どおりです。

私が困ったのは、下り坂を走るときに、両足の親指が足袋の先端にギュッと押し付けられるようになり、すぐに爪の痛みが出てしまったことです。これは、靴ひもの締め具合を変えたり、裸足をやめて靴下を使うようにしてみても変わりませんでした。自分が普段走るのはトレイルではありませんがそれなりにアップダウンがあるコースなので、下り道を避けることはできません。そうこうしているうちに親指の爪の痛みがひどくなってきたため、自分にとってはMUTEKI足袋は普段のランニングでは使えない、という結論にせざるを得ませんでした(親指の爪は、両方ともその後黒ずんではがれてしまいました)。

サイズ自体は裸足で履いてちょうどいいぐらいだったので、もう1サイズ小さかった方がよいということはまずありません。あと0.5センチ大きなサイズにしていたら大分と違ったのかもしれませんが、試していないので何とも言えないところです。当時5400円(今は消費税が上がって5500円)と、ランニングシューズとしては手頃な価格設定をされてはいても、サイズを上げたからといって痛みがなくなる確信は持てなかったので、もう一足購入して試してみようとまでは思えませんでした。

さて、普段のランニングでは使えないとなった私のMUTEKI足袋ですが、その後ずっとしまい込まれていたかというとそんなことはなく、とても重宝する使い道を見つけています。それは、ジムでトレッドミルやエアロバイクをする際のシューズとして持っていくことです(もちろんソールはきれいにしています)。さほど頻繁にジム通いをしている訳ではありませんが、トレッドミルには下りがないので親指は痛みません。突起や石ころもないので足裏が痛くなることもありません。私はトレッドミルでは傾斜を大きくしてトレイルランの登りの練習をすることが多いので、その分スピード(足の回転)が遅くなり、足指や足裏への負担が抑えられているという面もあるかもしれません。

それに、MUTEKI足袋はペチャンコにするとスリッパと大して変わらないぐらいの厚みしかなく、しかも軽いので、仕事帰りにジムに寄るときなどは普通のランニングシューズを持っていくよりも遥かに場所を取らず、荷物の重さや嵩張りを減らすことができます。室内でのトレッドミル利用というのはMUTEKI足袋の当初の設計思想とは大きく違うのかもしれませんが、この軽さと場所を取らない"ウルトラ省スペース"の度合いを考えると、自分にとっては「無敵」のジム用シューズです。

あとは、同じように軽さと携帯性を生かして、時々出張や旅行に行くときに荷物にMUTEKI足袋を忍ばせ、時間のあるときに宿の周辺を軽く走ったりということに使う場合もあります。これまでに行った中では、大阪城の周回コースはアップダウンがあまりなく、多少ゆっくり目に2、3周しても親指はほとんど痛みませんでした。

このように私の場合は、MUTEKI足袋は普段のランニングで使用するという当初の目的には合いませんでしたが、別の生かし方がありそちらで十分に強みを発揮してくれています。家の周りを走って親指の爪を両方ダメにしてしまったときはどうしようかと思いましたが、結果的に買ってよかったと思える一品です。トレッドミル主体で使う分にはソールはほとんど磨耗しないので、今の使い方ならあと5年ぐらいは優に持つのではないかと思っています。たまにトレッドミルも走るという方は、ジム用シューズとしてこの足袋を考えてみるというのもよいのでは、と感じます。

最近はアッパーにコーデュラナイロンを使い、ベルクロで細かくフィット感を調整できるToe-Biという進化版も出ているようです。こちらだと、足袋の中で足の位置をしっかり固定できそうですね。ちょっと値が張りますが。