愛のテーマ

今日は、急ですが、ラジオ局で働いていた時に出会った、とある曲についてのお話です。

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ラジオ局には、毎日数枚、時には数十枚のCDが届く。

アーティストが1枚のシングル・アルバムをリリースする時、1ヶ月前くらい、音源が解禁になって、ラジオでかけるためのプロモーション用CD(サンプル盤・割と簡易なCDケースに入っている)が送られてきて、リリース週になるとCDショップの店頭に並ぶものと同じものが送られてくる。

2010年年末、毛皮のマリーズというバンドの「ティンパンアレイ」というアルバムのサンプル盤が送られてきた。

志磨遼平さん率いる四人組バンド、毛皮のマリーズの新作。デビュー当時から大注目されていて、わたしの周りのロック通の方々は、彼らが大好きだった。

その頃、番組内で毎週1枚アルバムをピックアップして、アーティストからコメントをもらって、コメントと共に紹介するコーナーをやっていた。

誰のアルバムを選ぶか、アーティストに何を聞くか考えることが、わたしの楽しみだった。

わたしはロック通ではないけれど、毛皮のマリーズ、というか志磨さんの考え方が好きだった。何かの雑誌のインタビューで、コンプレックスと向き合った過去について語っていて、そのページの端っこを折って、いつでも読めるようにしていたことがある(詳しい内容は忘れたけど、コンプレックスと向き合って、それを音楽にしたという話)。

そんな志磨さんがフロントマンを務める、毛皮のマリーズの新作が12月末に届いた。アルバムのリリースは3週間後の1/19。

1年の締めくくりの仕事として、このアルバムを聞いて、コメント依頼書を書こうと思って、年末の誰もいない会社で、アルバムを聞くことにした。

デスクに座って、自分のパソコンにCDを入れる。

恋の曲が続いて、切なくなったのはうっすら覚えている。始めからこのアルバムはなんとなく好きだなと思った。アルバムを聴きながら、のりながら、同封された紙資料を見たり、おやつを食べたり、他のことをやっていたかもしれない。

そんな気ままな時間の終わりは突然やってきた。

9曲目。

イントロから、ミュージカルなのか、劇なのか、幕開けのような、何かが始まる音に聴こえた。

「ん?何が始まるのかな?」と、ヘッドホンに手を当てて、目を閉じて、音楽だけに集中する。

志磨さんが歌った。

「離れ離れの僕らは誰の力も借りずにほら、ちゃんと出会えたじゃないか、間違ってなかった、歴史は全て間違いじゃなかった」

なんと、なんて優しい歌詞なんだろう…これまでの自分たちの歩みを全てを受け入れて愛で包んでいる。

心がジーンとして、涙が出た。出たというか、温泉みたいにポコポコ溢れ出て、涙が湧いていた。

そこから3分半、どこを切り取っても、歌詞だけじゃなくって、音色も、声色も、どこを取っても、愛が詰まっていて、ずっとふわっふわの毛布に包まれて優しくハグされているような、そんな気分になって、曲の終わりには、涙をザーザーと泣き降らして、目がぼったりと重たかった。

その後、無我夢中でコメント依頼書を作って、アルバムへの想い、曲作りについて、志磨さんの恋愛観などを伺うことにした。

そして、2011年1月にリリースされた時に何度も番組でかけさせていただき、とても思い入れのあるアルバムになった。

そんな、この曲のタイトルは「愛のテーマ」。

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