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リリー・フランキーについての紆余曲折

リリー・フランキーって面白いんだよ、会ったことあるよ、などと、まわりの人たちがごちゃごちゃ言ってるなあと思ったのはもう25年くらい前だろうか。いろいろな噂を聞いてなんとなく影響を受けるのが怖くてずっと避けてきた。リリーが登場するイベント面白いんだよ! 本笑えるよ! などと、聞くたび、んーでもなんか変な名前だし―本業かよくわからない人ってちょっとなー、などと、見ぬよう触れぬようにして来た。

今から思うと自分自身が何が本業かというような人間になってしまうのが怖くて、ああいうのはイカン、一つのことを極めねば、などと、思っていたところがある。同族(なんて誰も思っちゃいないが)嫌悪というか。見聞きして、気に入っちゃったらどうしよう、あんなのを目標にしてはダメだ。などと、勝手に逡巡していたのだと思いますが、最初から、「この人避けよう」と、はっきりとではないが思ってた気がする。

しかし『東京タワー』あたりからどうにも避けきれなくなってきた。同じタイトル江國香織のは読んでたから、うわーこの大ヒット江國女史&江國ファンにとっちゃめちゃ迷惑だよねーと思って、本読むのは絶対やめようと思ったのですが、映画となると、やっぱみんなが知ってる一般常識みたいなもんだし観とくかとなって、ベタ泣き&ガンてやっぱ怖い! 衝撃! で、この原作ってことはすげえなって衝撃。


でもまあまた、しばらく避ける。私の目標とすべきはリリーじゃない、江國だ! というわけでもないが、江國香織ならまあ読む、しかしリリーの方は、きっとこれは近づきすぎてはヤバイもので、とかいう気持ちはあいかわらずうっすらあって。何なんでしょうね、負けるのわかりきってて認めたくない相手みたいな。近付いたら絶対気に入りそうなのでかえって避けねばと思ってたのかな。めちゃ魅力的なドラッグ、やったらハマる、危険、というような。

しかしいつのまにか彼は俳優業がかなりメインになってくる。是枝監督ものに出てきたあたりで、もうこの人は、空気のようなものとみなすべきだと思い、見るしかない。と、俳優仕事見て、うんまあ予想通りだなとか思って、それでも、相変わらず、まだ、ちょっと避けねばと思っていました。

福生で、リリーの壁画、壊される! 守らねば! って話を聞いて、あ、出た。と思って、それでもすぐに気持ちが切り替わったわけではないですが、もう自分、この年で、まさに何が本業かとなってて、んなこととかどうでもいいでしょう、みたいな気持ちになり、『女子の生きざま』読んでみて、ぎゃっはっはとなってやっぱこの人うんうんこういう感じだと思ってた、長年の懸念晴れた! という気になった。

でもって福生の壁画の件が書かれてる『美女と野球』だ。これ出たときはタイトルで腹抱えてワハハとなってしかし近付かないでいようとしたのは遠い記憶。今になってやっと初めて読みました。うわあとなった。

しょっぱなから笑って、やっぱり面白い!笑える! って箇所が大半。しかし、さりげなくずんと来る箇所がいくつか。

なかでもこれ、ツボだった。

当時、Nさんとボクは近所に住んでいて、Nさんは町中の鼻つまみモノだった。周囲の人は、あの人と遊んじゃイケマセン、と言ってたケド、ボクには色々と親切にしてくれたので、毎日のように会っていたのだ。

いやこういうのさらっと書いてあるけどなかなかできないものですよ。というか、私は近い体験があって、投げ出してしまったので、そのせいでツボに来るのだろうか。私にとってのNさんというべき人が、まさに、「リリーフランキーさん会いました、面白いです!」と教えてくれた友人だった。とても魅力的だが非常にわかりやすい欠点があり、私は最終的に投げ出して離れてしまって、あの時は他にもいろいろ事情があったので仕方なかったと思いつつも、ちょっと裏切ってしまった感あったというか、思い出すたび引っかかる。

という個人的な体験もあるけど、「私たちとても立派でしょ! いいことしてるでしょ!」って人らが、わりとしょうもない理由(というと、本人たちは、違う! とエンエン御託を並べるだろうが)でいともたやすく人をつまはじきにするのを、うわあーと思いながら見るなどのもろもろを経てきたせいだろう。これだけで、うわあっときてしまった。


鶴太郎への疑問も鋭い。ただ笑いとばすんではなくて、作品として批評するとかでもなくて、彼の、態度への疑問で切ってるところがすごい。鶴太郎的姿勢を取ってるけど実は計算高い、けどそれ隠してピュアなふりって人の方が私自身は気になるかな。あ、それってありふれてて当たり前すぎか。

世界で一番差別的な音楽ジャンルが日本のアイドル・ポップスって書ききっちゃってるのはネタもあってのことだろう。しかしまさに、いやあ差別ってホントこういうもんだよね。

自閉症双子「いるわけない」と書き送ってきた人へのいきなりマジ反論プラスこれもよかった。

「ボクは出不精で面倒くさがりだけど、なるべく色んな人に会って自分が当たり前に思っていることを修正したいと思っている。自分の考えてることが正しい、と思うことが怖いからだ。」

ああこうありたい、あらねば。なんて。

いやあ師匠一生ついていきますよ、なんてことまで思ってないしそんな年でもないしそんなの向こうも嫌だろう。せめてこれからは、グラビアン魂ってまだやってるのかすごいなどと思いつつこれからもちょくちょくリリー、チェックすることにいたします。愛してるよリリー。

リリーなら 歌手と思われ 知らんがな フランキーなら 堺と誤解


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