山ペンギン 特別編 春、そしてなつ

「にやーこー。」

自動ドアの前でかわいいにゃんこが鳴いている。

「中に入りたいのかしら。」
「でも一応ペット入店禁・・・」

主任とオレの目がイマドに向かう。
こいつは労働者なのでペットではないが・・・。

「なんか、山に行きたいって言ってるよ。」

イマド、お前、ねこの言葉分かるのか?

「なんでも高速移動についてしりたいらしいよ。」

あの・・ホバリングか?
なんでまた・・・

「にやここ、なぐるみやあ」

自分のことを理解してくれたと知って、なんとなく嬉しそうなにゃんこ。

首輪を見ると「なつ」と書いてある。

「この時期にぴったりの名前ね!!」

どこがでしょうか、主任。
「春が来ればなつが来る。
だってそうでしょう?」

そう言われればそうかもしれませんね・・・。
「桃源郷をすべってみたいって。」

梅しか咲いてなかっただろうが・・・。

ぱあっと明るくなるなつちゃんの顔。

「でもけがしないようにしないとね。」

なつちゃん専用の「ソリ」を作ることとする。

すりきれようが、爆発しようがどうでもいいイマドとは違う。

イマドは自腹でフィッシュフライを購入し、白身の部分だけをなつちゃんにあげた。

いまだろ!女神!

「犬ぞりしかなかったのです。」
・・・それは乗るんじゃなくて引くのを前提にしてるだろ・・。

イマドが短い手(?)で器用になつちゃんをだっこして、仕事の終わったオレとで裏山にのぼる。

ソリは100円均一のまないたを利用してなんとか用意してみた。
まないたにマフラーをまきつけ、間に小さなクッションを挟む。

「参考にして。」
イマドが斜面を滑り降りる。

全く参考になどならない。

「にゃる!」

突然なつちゃんは、ソリに乗りこみ、後ろ足でけりながら斜面に向かう。

「あぶないですわ!」
女神・・・ホント、アンタ神通力とかないのか。

止める間もなく、斜面を滑り降り・・・・いけない!その先は!

「ねこがすべってきたぞ。」

専務登場。

なつちゃんをだっこし、ソリはなぜか頭に載せている。
「泉に落ちたらどうするんだ。」

女神の上司なのに、なぜこれほど常識「神」なんだ。

泉にもし落ちたら、金銀鉄のなつちゃんになったのだろうか・・・。
いや、ねこであるなつちゃんに落ちてもらいたくはない。

「コツは分かった?」
得意げなイマド。

わからねえよ。

なつちゃんはお迎えに来られた飼い主さんに何度も頭を下げられながら帰って行った。

さびしげに見つめるイマド・・・

いや、だまされん。

カイコのときの記憶があるからな・・。
「太らせて・・・か?」

今回はイマドだけではなく、主任、女神、専務まで

何言ってんだ・・・という顔でオレを見た。

・・・オレは穴があったら・・
滑り落ちたい気持ちになった。

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