山ペンギン 6 傘がない日の雨

主任とオレは同じ時間に退勤になった。

大した距離じゃないが、同方向だ。
「オレ君、今日もありがとう。」

オレのセリフだ。

「あ・・。」

雨が降ってきた。天気予報ではせいぜい曇りだったんだが・・。

傘がない。

「オレ君、折りたたみ傘なんで、濡れちゃうかもしれないけど、入ってく?」

え・・相合傘・・

「あ、じゃあ、オレ、傘持ちま・・」

イマドがこっちに近づいている。

ただ近づいてくるわけじゃない。

100m前方から腹のホバークラフトですべってくる。

やり過ごしたい!!今だけはどうか、こちらに来るな!!

その願いははかなく打ち砕かれ、

イマドはコンビニ外の街灯に激突して止まった。

それでも、声をかけずにスルーしたかったが本人(鳥)はまったく気にせず立ち上がる。

得意そうに傘を差しだして・・と言いたいが持っているのはうちわだ。

「オレ君、帰ろう。」

主任はオレがイマドの飼い主とは知らない。

おそらく買い物をしにきた客、と認識しているのだろう。

オレは主任に少なからず驚いていた。

100m向こうからペンギンがすべってきて、街灯に激突。

さらにはうちわを差し出している。

その状況を何か日常の情景のように華麗にスルーしているのだ。

オレも気にしないことにした。

オレが主任の傘を持った。

イマドが傘の下に入った。

主任は・・。

店に戻って、コンビニ名物、500円ビニール傘を買った。

「さあ、帰ろう。」

うまく言えないが、

主任のことをもうちょっとだけ好きになったような気がしないでもない。

て言うか、イマド、

雨の中をホバークラフトで滑ってきたくせに、なんで傘の下に入りたいんだ・・。

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