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手放す美学

最後に残るもの

引っ越しの日、私はすべてを手放す決断をした。何年も触れていなかった本や服、ほとんど使ってなかった家具や海外へ旅行に行った際に買い集めていた雑貨、仕事で使っていた古い資料など過去のいろんなもの。それらは私の生活の一部であり、私の歴史を形作るものだったが、次第にそれらを持ち続けることが重荷に感じるようになった。

引っ越しの準備を進める中で、私はその一つ一つの物と向き合い、名残惜しさを感じながらも手放していく。手に取るたびに、懐かしさがこみ上げてくるが、整理しているうちに、心が少しずつ軽くなるのを感じた。


結局残ったモノたちは、新しく買ったものとかは関係なく、使い込んだものたち、長い間私の手に馴染んでいて、暮らしの中に溶け込んでいたモノたちだった。

なんだ、これだけで良いのか。


派手さもなく、流行に左右されることもない。無駄のないシンプルなデザインで、時を重ねた美しさを持つモノは、日々の生活の中で実用的であることの美しさを語っている。日本には、「用の美」という言葉がある。モノの本質はその美しさだけではなく、実際に使うことで真価が発揮される。最終的に残るもの、それは華やかさや贅沢ではなく、日常に寄り添い、長く使われてきた物たちの持つ静かな輝きなのだ。





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