さよならGoodbye #6
第6章 安野由美
「おはようございます」
彼の出社時刻は、8時55分、、いつも始業時間のギリギリの出社だった。営業部のドアを開けた彼の目に飛び込んで来たのは、人事部の安野由美!あの憧れの安野さんだった。
「えっえっ安野由美さん?」
「おい、田島!心の声が出てるぞ!」
井上課長の鋭い指摘で真っ赤になる彼だった。
「はい、皆んな揃ったので、安野君に挨拶をしてもらうぞ、、、では安野君!よろしく!」
「みなさん!おはようございます!4月1日付で
人事課から異動になりました。安野由美です。
どうぞ宜しくお願いします。」
「そう言うことだから、皆んなもしっかり仕事をしないと人事部にマルっと筒抜けだからな!」
井上課長の発言に一瞬、皆固まった。
「なに固まってるんだよ!まぁとにかく田島が安野君の教育係だから!頼むぞ」
「えっ僕がですか?」
「そう、僕がだ!変な気を起こすなよ!」
ちょっと何言ってるんだよこのおっさん!
彼は、心の声が漏れない様に細心の注意を
して、つぶやいた。
安野さんの席は、なんと彼の席の隣だった。
彼の心臓は、口から飛び出しそうだった。
安野さんの甘い香水の匂いで彼の精神は崩壊寸前だった。
「田島先輩!よろしくお願いしますね!」
「せ、先輩だなんてやめてくださいよ!」
彼は自分の顔が真っ赤になっているのが自分でもわかった。そんな彼に彼女はささやいた。
「私、田島さんと仕事するの楽しみですよ、、なんてね、、」
彼の息子は、安野由美の大胆なその言葉に直立不動状態だった。
「田島!何もじもじしてるんだよ?今日は、お前の担当店に安野君を紹介して回って来い!」
「は、はいわかりました。」
「返事だけは一人前だな」
井上課長の嫌味は慣れっこだったが、安野さんには、いいところを見せたい彼だった。
「じゃ落ち着いたら出発しましょう!9時半までには、会社を出ないとまたカミナリが落ちますので、、」
「はい、よろしくお願いしますね」
安野さんがニッコリとそう言うだけで彼は天にも登る気持ちになった。
「じゃ行きましょうか?今日は、かなり歩きますが大丈夫ですか?」
「はい、私これでも大学時代は、体育会系だったんですよ」
「へぇそうなんですか?何部だったんですか?」
「ラクロス部に4年いたんですよ。」
「田島さんは、何部だったんですか?」
「田島さんって、俺、後輩なんで田島君で良いですよ。」
「じゃ田島君!田島君は、何部だったんですか?」
「俺は、軽音楽部でバンド活動してました。」
「へぇーすごいですね?ロックですか?」
「ええ、ロックでも静かなロックです。」
「静かなロックってあるんですね?勉強になります。」
「また、安野さんは持ち上げるのがうまいですね?
もう着きますよ!あの交差点の角のビルが阪和交通社のビルですよ。」
「本当だ!派手な看板ですね?」
そう阪和交通社のビルの屋上には高さが5メートル位はありそうな広告塔が立っていた。
相変わらず海外ツアーセンターは、電話が鳴り響き、さながら戦場状態だった。
その迫力に押し潰されそうになりながらも彼は
気合いを入れ、渡辺課長に挨拶をするのだった。
「渡辺課長!おはようございます!ご挨拶よろしいでしょうか?」
「おートリップ田島君じゃないか?久しぶりだな
出禁は解除してもらったのか、、と言うか、、
おいおい、ついに担当者が変わるのか?」
「いえいえ、担当が変わる訳ではなくて新人のご挨拶で今、お得意先を回らしてもらってるんです。」
「なんだよーこっちは、期待しちゃったじゃない!
こんな美人さんの担当者だったらツアー全部トリップワンさんにお願いしちゃうよ!」
「また、また、渡辺課長勘弁してくださいよ!」
「いや、マジだから!なんでも良いから紹介しろよ!」
「じゃ安野さんお願いします。」
彼は小声で安野さんに耳打ちをした。安野さんの
甘い香りにまたまたクラクラする彼だった。
「はじめまして安野由美と申します。渡辺課長のお噂はかねがねお伺いしていました。どうぞ宜しくお願いします。」
「何なに?どんな噂?」
「阪和交通社さんの一番のやり手ってもっぱらの噂ですよ!」
「やり手って!またまたうまいね!君の方がよっぽどやり手なんじゃない?もっと話したいだけど、会議始まってしまうので、またゆっくり話しましょうね!」
「はい!ありがとうございます!」
その後も、一通りの挨拶を終えて、二人は次のクライアントの青山ツーリストに向かうのだった。
「なんか雨降りそうですね?」
「本当ですね?あれ?雨降るとか天気予報言ってましたっけ?」
「とにかく、新橋駅まで急ぎましょう!」
彼がそう言った瞬間!とてつもない雷の音が!
そして突然の雷雨!
「やばい!やばい!安野さん!あのビルの軒下までダッシュです!」
「はい!走りましょう!」
やっとの事で雨宿りができた二人だったが、二人ともバケツで水を頭からかぶった状態だった。
安野さんを横目で見る彼!
すっかり下着が透けている安野さんを見て思わず
自分の位置を直す彼!
「ハンカチ使いますか?」安野さんの声も彼には届かなかった。
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