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2020年大甲媽祖巡礼にオンライン参戦中

ユネスコの無形文化遺産にも登録されている台湾の有名な宗教行事「大甲媽祖巡礼(大甲鎮瀾宮天上聖母遶境進香)」。年に一度、台中市大甲にある廟「鎮瀾宮」に祀られている道教の女神「媽祖(まそ)」さまの神輿が各地を練り歩きながら、目的地である嘉義県新港の媽祖廟「奉天宮」を目指します。往復で330kmの道のりを9日間にわたって神輿行列が歩いて進み、随行参加する信徒は延べ100万人を超えるとも。
実は、私もその一人です。

■「三月瘋媽祖(三月は媽祖さまに熱狂する)」

道教や媽祖さまについては今後少しずつ別途投稿する予定なので、ここではごくごく簡単に、軽い感じで書いておきます。

●台湾のお寺約12,000のうち、道教は約9,700(道教が盛ん)。
●道教には、たくさんの神様がいる(多神教)。
●台湾で人気トップクラスの女神が「媽祖(まそ)」さま。
●媽祖廟(媽祖さまを祀るお寺)は台湾に900以上ある。
●媽祖さまの誕生日である旧暦3月23日前後には全国の媽祖廟でお祭りがある。

台湾の宗教行事は旧暦(台湾では農曆という)で行われるため、媽祖さまのお誕生日も西暦では毎年異なりますが、旧暦3月は媽祖さま生誕記念イベントで大いに盛り上がります。台湾が「三月瘋媽祖(三月は媽祖さまに熱狂する)」という訳です。代表的なもののひとつがこの「大甲媽祖巡礼」です。▼大甲鎮瀾宮

台中市・大甲鎮瀾宮

普段は廟の中にいる媽祖さまがお神輿に乗って各地を歩くというのは、いわば「超推しのアーティストが地方ツアーでうちの町内まで来てくれる!」というようなもので非常に喜ばしいことなのです。さらに、全会場制覇したいコアファンがツアーについて遠征したりもする(=巡礼に随行する)という状況になります。(ひどい例えですが、結構当たっていると思います。媽祖さまの場合は目的地までの行程自体もイベントなのですが。)

お神輿には、実際に神様(神像)が乗ります。廟の本尊として祀られている大型の媽祖神像は、鎮瀾宮では「大媽」と呼ばれています。サイズ的にお神輿に乗れませんが、媽祖さまは「分身」をたくさんお持ちで、巡礼に「出動」するのはこの3人(人じゃないけど)。(▼鎮瀾宮公式FBより)

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全部「大甲媽祖さま」なのですが、それぞれに由来やエピソードがあります(これもいつか別途書きます)。

■新型コロナの影響で延期になった今年の巡礼

2020年(庚子年)大甲媽祖巡礼は、元々西暦4月7日(旧暦3月3日)開始予定でした(媽祖さまのご神託によって決まるため毎年開始日は異なります)。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、史上初めて「延期」の判断を余儀なくされました。

6月8日、鎮瀾宮が6月11日(旧暦4月20日)の出発を発表。7日のご神託伺い(擲筊)で決まったとのことでした。どのみち今日本人はビザ免除の台湾入国ができないので、自動的に「ネット参戦」が確定しました。残念~。
▼2020年(庚子年)のスケジュール(鎮瀾宮公式サイトより)

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■媽祖さま現在位置GPSアプリ&ライブ配信

清代からの伝統的な宗教行事ではありますが、時代はIT。近年、大甲媽祖さまのお神輿にはGPSが搭載されています。お神輿が現在どこを進んでいるか、次はどこの廟に立ち寄るかがわかるウェブページやアプリが作られ、廟の巡礼公式ファンページ(Facebook)では随時ライブ配信も行われています。

大甲媽祖20200ライブ待ち画面

今年の大甲媽祖さま現在位置GPS表示ページ。日程表・時間表と合わせて確認できます。媽祖さまアイコンがかわいい。
▼「大甲鎮瀾宮天上聖母庚子年遶境進香即時衛星定位服務」

大甲媽祖20200616現在位置ページ

スマホ用・大甲媽祖さま現在位置アプリもあります。

媽祖APP

長い行列の最後尾近くに媽祖さまのお神輿があるので、行列先頭に近い太鼓部隊(開路鼓)の現在位置が分かるページもあります。(開路鼓の位置が大いに参考になるのは苗栗・白沙屯拱天宮の媽祖巡礼ですが。)
▼「大甲鎮瀾宮開路鼓即時定位系統」

今年に限らず、現場に行けない人たちは公式Facebookのライブ配信や個人のYouTubeライブ配信などを渡り歩きながら「オンライン参戦」することができるようになっています。

■異例づくしの2020年大甲媽祖巡礼のスクショ記録
これを書いている16日現在、大甲媽祖さまは帰り道です。西暦6月11日23時に台中市の鎮瀾宮を出発、南下して彰化県・雲林県の多くの廟を周りながら14日夜に嘉義県新港・奉天宮に到着。15日夜22時に奉天宮を出発し、北上しているところです。大甲に帰着するのは20日夕方です。

大甲媽祖20200616開路鼓ページ

私の気持ちとしては、時間が許す限り(+ライブ配信の提供がある限り)媽祖さまのお神輿をオンラインで見守っています。
ここから先は、今回の往路~奉天宮出発までの間の名場面(?)のスクショを、日記代わりにぺたぺた貼っていきます。

今年は本当に異例づくしで、ライブ配信を見ていて「うわぁ!」と思うことが多いです。詳しい説明は今回は書かないので、こんな雰囲気なのか~と思っていただければ。現地の回線がパンク気味な時も多いので、画像は不鮮明なものも多いです(でもリアルで見ていることに意義がある)。YouTubeとかには鮮明な記録映像もたくさんあります。
スクショ出典は、特に記載がなければ大甲鎮瀾宮公式Facebookから。

【スクショ集-1】大甲鎮瀾宮起駕(神輿出発)

跪いてのお見送りは初めて見ました。すてきだ!神輿出発(起駕)の瞬間はいつ見てもわくわくします。

大甲媽祖20200611-12_01出発

大甲媽祖20200611-12_01出発02

台中市・大甲から南下するルートではいくつもの河を越えます。鎮瀾宮からほど近い大甲渓橋のたもとでは、毎年出発を祝う大規模な打ち上げ花火があるのですが・・・巡礼で通る地域は結構な郊外(田舎)なので電波状態が悪いのですよね。

急な開催にもかかわらず沿道には多くの人が集まり、そのせいか肝心の花火が打ち上がる頃にはライブ配信は完全にダウン。コメント欄が阿鼻叫喚になっていくのを見るのもオンライン参加の醍醐味と言えましょう。

大甲媽祖20200611-12_01出発回線パンク

▲鎮瀾宮公式FB、宗教文化専門番組「寶島神很大」のYouTubeライブ配信が同時にダウンしたところ。あらら。

【スクショ集-2】混雑防止のため「鑽轎」なし→超高速移動に

媽祖さまのお神輿をくぐる(鑽轎)と御利益があるとされます。お神輿が安置されている時は自分で這ってくぐるのですが、動いている時は、お神輿の進路の路上に一列にひれ伏していると、上をお神輿が通ってくれます。
今回は人が殺到するのを避けるため「鑽轎」は禁止に。沿道の地元民はお神輿を道の両側から見届けることになりました。

大甲媽祖202006113_01西螺沿道の人

例年、大甲媽祖さまのお神輿は100以上の廟を回りながら進みます。各地で歓迎されるため、予定時間表からはどんどんどんどんどんどんどんどん遅れていって、一日の予定が4~5時間押すことも珍しくありません。(そして夜の休憩時間が削られ、随行者にとって更に苛酷な状態になる。)

「鑽轎」がないとお神輿は時速4~5km(アプリ表示)で進めることがわかりました。その結果、初めて、予定より数時間も「巻く」という驚愕の光景を見ることに。いや例年は本当にあり得ないことなんです。巻きすぎて臨時で予定外の廟に立ち寄ったりまでしています。異例すぎます。

大甲媽祖20200612_03-01

【スクショ集-3】「あの」彰化市民生地下道

俗に「第一級戦区」と呼ばれる、彰化駅近く・民生路の地下道(扇形車庫の横あたり)。白熱した信徒たちによる小競り合い(というか乱闘)が起きやすいエリアで、信徒より警察官の方が多いほどの厳戒態勢になるのです。(歴史的に色々事情があってのことですが今回は説明省略。)廟の公式FBライブ配信も、ここだけは2ヶ所からの同時配信に。

大甲媽祖202006112_04民生地下道公式2画面

「民生地下道は今年はどうなる?!」と毎年注目を集める往路の名物ポイントで、ライブ配信のコメント欄も大盛り上がり。しかし今年は、あっけないほどあっさり通過。これも本当に珍しい・・・。明るいうちにここを通ることも含め、たぶん二度とないのでは。

大甲媽祖202006112_04民生地下道行列

大甲媽祖202006112_04民生地下道行列02

雲林県・西螺大橋のあたりもすごい人出で、廟公式の回線がダウン。「寶島神很大」のYouTubeライブ配信に切り替えて見守りました。

大甲媽祖202006113_02西螺大橋

▼立ち寄る廟に「歓迎・大甲媽祖さま」という意味の横断幕が出ています。天上聖母=媽祖さまです。各地で大歓迎されながら、大甲媽祖さまはさらに南下していきます。

大甲媽祖202006113_02西螺大橋02

▼写真左奥に見える西螺朝興宮(吳厝媽祖)に立ち寄る前には、名物の「クレーン車爆竹&花火」でお出迎え。

大甲媽祖202006114_01西螺吳厝

雲林県を通過。青青とした田んぼに映える大甲媽祖さまの行列。

大甲媽祖202006114_02雲林

【スクショ集-4】超高速で奉天宮到着、ただし入廟まではさすがの行列

例年を知っているとちょっと信じられないくらいスムーズに嘉義県・新港に着いた大甲媽祖さまですが、奉天宮への入廟は予定時刻をオーバーしました。

新港の街に着いたのは予定より早かった(これも異例)のですが、大甲媽祖さまの神輿行列は縮小されたとはいえ800人規模(例年は1000人を超える)。大甲媽祖さまのお神輿はしんがりで、その前にはたくさんの団体がおり、それぞれが到着を報告しお参りします。

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮前三拝

加えて奉天宮からのお出迎えのお神輿(奉天宮の媽祖さま)とその一行が、一団体ごとに門前でパフォーマンスをしたり、爆竹を鳴らしたり(神様が廟に入るときは場を爆竹で清めるので、一団ごとに大量の爆竹を路上に敷き詰める→鳴らすという作業が繰り返し行われる)。

▼写真左側が奉天宮入口。鎮瀾宮公式がフリーズしまくりだったので、俯瞰定点で配信していた新港奉天宮公式FBのライブ配信より。

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮01

大甲媽祖さまご一行が奉天宮近くに到着してから入廟まで、たぶん3時間半くらいかかりました(その間ずっとライブ配信を見ていました)。その間大甲媽祖さまのお神輿はワンブロック先でずっと待ち状態。お疲れさまです・・・。

でも、この入廟前のパフォーマンスタイムはかなり楽しいです。現場で良い場所を陣取っていると爆竹の煙で体じゅう真っ黒になりますが。

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮マスク舞獅

こちらの舞獅(獅子舞)は「コロナ対策」モード。青いマスク付けてる!超レア!!か~わ~い~い~!!!(≧∀≦)
台湾で見られる舞獅はいくつか種類があるのですが、香港と同じタイプの「廣東獅(広東獅)」はモフモフで目はクリクリ、しかもパチパチまばたきします。さらに2人で操るのでかなりアクロバティックな動作も可能。鉄棒に登り、垂れ幕を披露。

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮マスク舞獅鉄棒

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮マスク舞獅鉄棒02

本来、廣東獅はお口がパクパクできるんですが、それを犠牲にしてのマスク姿もかわいいです。

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮マスク舞獅隊

▼これぞ「台味」(台湾風)という女子楽団。台湾北部ではあまり見られません。

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮女子楽団

▼舞獅隊2つ目。こちらもかわいい。

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮舞獅2

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮太鼓

神輿行列が廟を訪問するとき、その廟の神様が「ようこそいらっしゃいませ」とお神輿で出迎えることがあります。こちらはお出迎えに出ていた奉天宮の媽祖さまの神輿行列の先頭「報馬仔」。「行列が来たぞ~」と伝える役目です。変わった姿をしていますが、衣裳や持ち物ひとつひとつに由来があります。

大甲媽祖202006114_03新港奉天宮の報馬仔

以前誰かに「台湾のお祭りの人形みたいなやつが歩くの見てみたい」と言われて本気でイラッとしてしまったことがあります。人形じゃなくて、神様です。大甲媽祖さまのお出迎えに出た奉天宮の媽祖さまに付き従う、順風耳・千里眼の両将軍。

大甲媽祖202006114_04新港奉天宮02千里眼順風耳

確かにかわいいんですけど、絨毯のように敷き詰められた爆竹の火花の中踊り狂う太子爺とか神童団の姿はむしろ鬼気迫る、いや「神気」迫るものがあります。▼地面に広げられた爆竹。

大甲媽祖202006114_04新港奉天宮02爆竹絨毯2

大甲媽祖202006114_04新港奉天宮02太子

大甲媽祖さまのラッパ隊(哨角隊)はすごい規模。今回は中央にかわいい隊員の姿が見えました。このベージュの服は廟のユニフォーム(廟服)で、廟によって色やデザインが違います。

大甲媽祖202006114_04新港奉天宮02ラッパ隊

やっと大甲媽祖さまのお神輿が奉天宮前に。歓迎の花火が上がります。

大甲媽祖202006114_04新港奉天宮02入廟花火

大甲媽祖202006114_04新港奉天宮02入廟

そして、大勢の信徒に見守られながら、無事に大甲媽祖さまのお神輿が奉天宮に入廟。翌日夜に帰路につきます。

■奉天宮入廟後の団体参拝も中止に
奉天宮に到着した大甲媽祖さま(の神像)は、ここで神輿を降りてしばし鎮座します。例年だと大規模な団体参拝儀式があるのですが、今年はそれも中止され、自由参拝となりました。寂しいですが仕方ありません。

【スクショ集-5】そして再び「自宅」大甲鎮瀾宮へ出発

そして翌日夜、大甲媽祖さまの帰路が始まりました。お見送りの花火が打ち上がります。帰りは5日間の行程。行きよりちょっとだけゆっくりです。

大甲媽祖20200615_01新港奉天宮起駕01

大甲媽祖20200615_01新港奉天宮起駕02

往路と復路で計330kmもの距離を練り歩く大甲媽祖巡礼。目的地・新港奉天宮に行くだけでなく、沿道にあるさまざまな廟(媽祖廟はもちろん、その他の神様の廟も)に挨拶しながら回っていきます。(行きも帰りも立ち寄る廟もあれば、片方だけの廟もあります。)

台湾中南部の広い地域で信仰を集める大甲媽祖さまが自らお出ましになるという年一度の大イベント。今年はだいぶ規模が縮小されてしまいましたが、逆に色々な意味でかつてないものになっています。

今年は行けなくて本当に残念なのですが、ネットのありがたみをかみしめつつ、最後までできるだけ見届けたいと思います。媽祖さま大好きだ。

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