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童話「おとしもの」

娘が まだ2歳か3歳の頃、
オリジナル作品を読み聞かせしたいと
童話を書いてみました。
24年ほど前のことかなぁ。
引越しの片付けしていて、
偶然見つけました。

本当は絵本にしたかったけど、
私には、恐ろしいほど絵心というものがなく、
子供たちにもなさそう。。。
いつか、絵が得意な孫が生まれたら、
孫とのコラボで絵本を出したいな♡


『おとしもの』

「うわぁー 今日もいいお天気だ!」
いつものように うさぎのピョン太は目が覚めました。
「さぁ、お散歩にでかけよう!」
朝ごはんの にんじんを お腹いっぱい食べて、ピョン太は元気に出かけました。

 ここは 静かな森の中。
大きな木が風にゆれる音。
とってもきれいな小鳥の歌声。
おいしい空気を吸いながらの森のお散歩は、ピョン太のお気に入りでした。

 ピョン、ピョン。
今日の耳の調子はどうかな?
ご自慢の長いお耳はピンと立っています。
赤いおめめも よく動くお鼻もおヒゲも、今日はバッチリです。

 ピョン、ピョン。
「何かいい事あるかな?」
軽やかな足取りが、急に止まりました。
「あれ?これは何だろう?」
1枚の紙切れに記号がたくさん書いてあります。
「きっとこれは大切なものに違いない。持ち主に届けてあげなくちゃ!」

 ピョン、ピョン。
ピョン太は森の住人たちに聞いてみることにしました。

 「こんにちは。ねぇ、ヤギさん、道にこんな物が落ちていたんだけれど誰のか知らない?」
めがねをかけた おヒゲの長いヤギさんは、
「あら、とてもおいしそうな紙ね。私、朝ごはんまだなの。それ、私に下さいな」
「だ、だめだよ。これは大切なものなんだから ヤギさんにはあげられないんだ」
ピョン太は、あわててヤギさんの家を飛び出しました。

 「一体、誰に聞いたら持ち主がわかるんだろう」
ピョン太は考えました。
「そうだ!物知りのフクロウおじさんに聞けばわかるかもしれない」

ピョン、ピョン。
大きな木にたどり着きました。
ピョン太は木に登ることができないので、木の下から大きな声で、
「フクロウおじさーん!」
と、叫びました。
でも、何の返事もありません。
もう一度、
「うさぎのピョン太です。フクロウおじさん、いーまーすーかー?」
ピョン太の赤いおめめが もっと赤くなるくらい大きな声で叫びました。

  すると、
「今、誰か私を呼んだかね」
眠そうな目をパチクリさせながら、フクロウおじさんは顔を出しました。
「フクロウおじさん、ここです。ピョン太です。寝ているところを起こしてごめんなさい。この紙の持ち主が誰なのか、フクロウおじさんに聞けばわかると思って」
「フムフム」
フクロウおじさんは、二つのおめめをパチクリさせながら、
「わしにもよくわからんのだが、何やらカエルの赤ん坊のようなものが書いておるの。ここの道をまっすぐ行ったところの池に、カエルさんがいるから、カエルさんに聞けば何かわかるかもしれんな」
フクロウおじさんは"ふぁ~"と あくびをひとつして、バタンと戸を閉めてしまいました。
「フクロウおじさん、ありがとう」
ピョン太は急に元気になって、教えてもらった池に向かって走り出しました。
ピョンピョン、ピョンピョン。

 うっそうとしていた森がひらけ、キラキラ光る池が見えてきました。
「ハァハァ…」
急いで走ってきたので、ピョン太は息も絶え絶えでした。
呼吸を整えて、
「ねぇ、みどりのカエルさん、これ、誰のか知らなーい?」
みどりのカエルさんは、生まれたばかりの赤ちゃんオタマジャクシに泳ぎを教えているところでした。
スーイスイと、泳ぎの得意なカエルさんは、池のふちにいるピョン太のところまで泳いできました。
そして その紙を見るなり、
「あら、私の子供たちににているものが書いてあるわね。でもよく見ると違うわ。残念だけれど私にはわからないの。ごめんなさいね」
みどりのカエルさんは、また赤ちゃんオタマジャクシのところへ戻って行きました。
ピョン太はガッカリしました。
「一体、誰のものなんだろう。せっかく届けてあげようと思ったのに…。今日は もう疲れたから、明日もう一度探してみよう」

 ピョン太がトボトボ帰り道を歩いていると、しょんぼりと うつむきながら歩いている小鳥の先生と出会いました。
いつも明るく きれいな声で歌っている小鳥の先生の、こんなに元気のない姿を ピョン太は見たことがありませんでした。
「ねぇねぇ、小鳥の先生、元気がないけどどうしたの?」
ピョン太は、とても心配になって聞いてみました。

 小鳥の先生は、ピョン太の声にびっくりしながら、
「ピョン太くんだったの?私ボーッとして気がつかなかったわ。実はね、明日、歌の発表会があるんだけれど、私ったら きのう強い風が吹いた時に、楽譜を一枚飛ばして失くしてしまったの。その楽譜がないと、明日の発表会が台なしになっちゃうのよ…。今、きのう通った道を探していたんだけれど見つからないの、困ったわ…」

 ピョン太は、自分の手に持っている一枚の紙を、もう一度よく見てみました。
「小鳥の先生、先生の探しているものって、もしかしたら これのこと?」
ピョン太はドキドキしながら、小鳥の先生に その紙を見せました。
「そう!これよ、これなの、私の探していたものは。よかった!ありがとうピョン太くん。本当にありがとう。これで明日の発表会は、きっと成功よ。これからすぐに生徒たちにレッスンしなくちゃ。そうそう、ピョン太くん、よかったら明日の発表会見にこない?明日の10時から森の高台で始まるから、気が向いたらぜひ来てちょうだいね」
小鳥の先生は、いつもの元気な先生に戻り、きれいな声で歌いながら森の中に消えていきました。

 次の日、ピョン太は いつもよりていねいに、お耳やおヒゲのお手入れをして、首には 蝶ネクタイをしめ、森の高台へ向かいました。歌の発表会を聴きに行くためです。
ピョン太が高台に着いたころには、もうすでにたくさんのお客さんが来ていました。
きのう、危なく楽譜を食べられそうになったヤギさんも、寝ぼすけのフクロウおじさんも、みどりのカエルさんも みんな来ています。

 さぁ、いよいよ発表会の始まりです。
小鳥の先生は、お客さんの方に背中を向けて、一生懸命タクトを振っています。
澄みわたった青空に、澄みきった小鳥さんたちの歌声。
それはそれは素晴らしいものでした。
お客さんからは、われんばかりの拍手の波。
ピョン太も一生懸命拍手をしました。
そして帰り道、発表会で覚えた歌を口ずさみながら、とても幸せな気分で帰りました。

                                                          おしまい

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