高校内居場所カフェに足を運んだサヤ
今、通っている高校には週に一回、「ほっとるーむ」という居場所カフェが、学校内にオープンしている。夏までは別の高校に通っていたけど、入学してすぐに仲良くなった友だちが、去年の夏休み明けに学校を中退しちゃって、なんかそこから学校で自分の居場所がなくなってしまった。休み時間も移動教室も弁当もいつも一人。別に無視や仲間はずれにされていたわけではないんだけどね。気がついたら自分も学校を休みがちになって、結局いくつかの授業を落として留年することに。でも新入生と一緒にもう一度やり直すのは精神的にしんどくて。今の定時制高校に転学することになった。
定時制高校は前の学校のように、あまりクラスで固まって何かすることは少ないし、みんな積極的に友だちグループを作ろうという空気がないので、居心地は良かったけど、何か物足りなかった。そんなある日に「今日は昼休みにほっとるーむがある日やから、良かったらのぞいてみるとええで」って、担任の先生が朝のホームルームでアナウンスした。まちのカフェのようなBGMが流れている会場の多目的ルームをちょっとのぞいて帰ろうと思ったら、「いらっしゃい、はじめてやんな。消毒してからそこの紙コップとってね。紙コップに呼んで欲しい名前書いてや」と、受付のおばちゃんに声かけられた。無料のジュースとお菓子を選んで、空いた席でスマホを触っていたら、大学生っぽいスタッフの人が「ちょっとアンケートに協力してもらっていいかな?」って声をかけてきた。
【ヤングケアラーって知っていますか?】って書かれたボードに、丸いシールを貼るだけのアンケートやったので「知らない」にシールを貼った。次のボードは【家で食事づくり・掃除・洗濯・家族の世話をどのくらいやっていますか?】という質問だった。うちは母子家庭で、お母さんが離婚してからおじいちゃんのうちで暮らしているんやけど、三年前におじいちゃんが倒れて半身麻痺になってから、お母さんが仕事でいない時は、私がおじいちゃんのトイレの付き添いをしている。これって世話にあたるんかな、と思ってスタッフの人に聞いてみたら。「めっちゃ家族の世話やん。トイレの付き添いってことは、毎日やんな?」って聞かれてうなずいたら、【ほとんど毎日している】にシールを貼ってくれた。「おじいちゃんのお風呂とかはどうしてるの?」「デイサービスとかで入っているみたいです」「そっか、でもトイレはデイサービスだけじゃ何ともならんもんな」って、いろいろ家でのおじいちゃんの話で盛り上がった。こんな話は今まで友だちにも先生にもしたことなかったので、何か変な感じやった。
突然、部屋のBGMが遠き山に日はおちてに変わった。「あ、もう終わりの時間やわ。来週が今年最後のほっとるーむで、クリスマス会するし来てね。チキンもあるしビンゴ大会もあるから。それと冬休みに『ケアピアふゆキャン』ってお泊まり会するねんか。サヤさんのようにおじいちゃんの世話している大学生とかも参加するで。詳しいことは来週説明するな」とチラシを手渡された。
なんか来週も参加する流れになっているけど、昼休み特にすることないし、せっかくのクリスマス会ってことやし、冬休みのお泊まり会も気になるので、来週もほっとるーむに顔出してみようと思っている。
※「ケアピアふゆキャン」はヤングケアラーの高校生や学生を対象にしたお泊まり合宿です。ヤングケアラーの若者同士による交流の場と共にピアスタッフとしての研修の場にもなっています。
【解説】
この物語は2022年6月より、京都新聞(滋賀版)にて月一の連載としてはじまった「こどもたちの風景 湖国の居場所から」の前半部分の物語パートです。こどもソーシャルワークセンターを利用する複数のケースを再構築して作っている物語なので、特定の子どもの話ではありません。
第1回から第6回までは三人の中学生を主人公に話を展開していきましたが、今回から物語の主人公が変更。まずは高校生のサヤが参加した学校内で行っているアウトリーチ(出張)型の居場所である「高校内居場所カフェ」を舞台としました。
こどもソーシャルワークセンターでは2018年度より、地域の定時制高校である大津清陵高校と共同して、高校内居場所カフェを実施しています。高校内居場所カフェは大阪や神奈川で取り組みがはじまり全国に広がっています(高校内居場所カフェについては書籍『学校に居場所カフェをつくろう!』がわかりやすく説明されています)。
今年度の高校内居場所カフェは、この夏よりはじまったヤングケアラー支援事業の一環として活動を行っていることから、今回の物語のように生徒さんにヤングケアラーについてのアンケートを実施したり、ヤングケアラー支援活動の広報啓発活動を行っています。シールを使ったアンケートでは、ヤングケアラーであるピアスタッフたちとアンケート項目を考えるのですが、ある時に厚生労働省のヤングケアラー啓発ポスターがどれだけ生徒に浸透しているのかアンケートをとったのですが、興味深い結果となりました。
昨年度、厚生労働省が作ったヤングケアラーについての啓発ポスター(現在は厚生労働省のサイトから削除されています。「家族をささえているヤングケアラーはかっこいい」というリード文について当事者から批判の声が出ていたのでそれが関係しているのかもしれません)が、生徒たちが必ず通る箇所に一年近く掲示してあったので、【このポスターを見たことありますか?】とアンケートをとってみました。結果ですが、数名が「ある」にシールを貼っただけで、残り全員「ない」にシールを貼るという結果でした。
子どもへの啓発活動でやたらポスターやプリント(クリアファイルなどで工夫している場合もあり)を配布するのですが、子どもたちにとっては目に入っても必要な情報としてインプットされていないのがよくわかりました。居場所で直接対話することでアンケートというツールを使いながら、今回の物語のように直接知ってもらったり説明したり、支援活動につながるような方法が子どもたちには特に効果的だと感じています。
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