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交錯する感情! 美味そうなメシ! 予想しにくい展開! 見どころてんこ盛りな『タスキメシ』を解説!

足立区立舎人図書館さんと共同で行っている読書イベント「本と、おしゃべりと、」の11月のお題は「〇〇の秋を感じさせる小説」! ゆっきー舎小柳は食欲の秋とスポーツの秋を両立する作品として、額賀澪『タスキメシ』を紹介しました♫

1・作品概要

『タスキメシ』駅伝などの長距離走に取り組む若者たちの喜びや挫折、苦悩や憧れを、さまざまな料理や調理シーンと並行して描いています!と、言ってもなんだかさっぱりわからないと思うので、まずは相関図を書いてみましたよ〜♫

しかし!! 本作はハッキリ言えば人間関係と心の動きこそが話のミソです。そのため、相関図を書くこと自体がネタバレになってしまいます。

 (⌒▽⌒)

なので、とりあえずネタバレを伏せた相関図をここであげ、ネタバレ全開の相関図は記事の最後に貼り付けますね。

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※作品に登場するのは全部人間ですが、イメージを邪魔しないように猫化しています。

では、ここからは作品の見どころを上げていきましょう。

2・作品の見どころ1…キャラの心情と展開の巧みさ!

序盤を読むと、悩める主人公:眞家 走馬と、やはり悩めるヒロイン:井坂 都の関係性が話の中心だと誰もが思うでしょう。しかし、走馬の弟:春馬やチームリーダー:助川 亮介、さらにその他の人物それぞれの思いが複雑に絡んできて、途中から話の向かう先かわからなくなります。さらに、春馬箱根駅伝を走る展開と、各キャラの記憶が並列で描かれるので構成はかなり複雑です。

個々の思いがバラバラに描かれる前半と中盤は、読んでいて「わかる! そういうのあるよね」「人の痛みに接するのは難しいよね」と感情移入しながら楽しむ群像劇的面白さがあります。

ところが、後半、突然に話がある一点に収束し始めます。すると、前半のゆったりした展開が一変! 読み味が一気にハイになるのです。このギアの切り替えが実に見事で、良い意味で置いていかれそうになります♫

図にするとこんな感じ! ↓

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悩みいっぱいの前半からは予想できない盛り上がりが後半に用意されていますが、実はこの展開、著者額賀澪が得意なパターンのようです。

うまく行かなさを受け入れて、少年が大人になっていく、という展開が続き、読み手がそれを受け入れそうな、まさにそのときに、別の道が示され、あっ、そっちかっ! と驚かされ、それならオレも応援するよ!という気持ちになる。『タスキメシ』の読みどころはまさにそこにあるのです!

3・作品の見どころ2…メシが美味そう!

『タスキメシ』というタイトルですから、随所に登場する美味そうな「メシ」も大きな見どころです。

井坂 都は家庭環境の悪さが原因で、小学生の頃から料理を始めます。彼女にとって調理は、最初は「可哀想な子供」と思われることへの反抗でした。しかし、高校生になった頃には自分の存在意義であり、力強さの源にもなっています。

悩める眞家 相馬はあるキッカケで調理実習室を訪れ、に出会って料理を習い始めます。偏食が激しい弟:春馬に手料理を食べさせる、という目的ができた走馬は、といろいろな料理を作るのですが…   

この小説、読んでてめっちゃ腹が減る!

( ̄▽ ̄)

と、いうわけで、料理大好きゆっきー舎としては、作中に出てくる料理を何品か作ってみました。

走馬が最初に作った料理は、アスパラと里芋と豚肉の照り焼き炒め、ゆっきー舎作成はこちら↓です。

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里芋がキレイに丸いのは、私が細かいのではなく手抜きで冷凍モノを使ったせいです💦

あと、アスパラがちょっぴりコゲちゃいましたが、味は美味しかったですよ(╹◡╹)

次は、走馬が野菜嫌いの春馬のために作った肉味噌です↓

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見た目は地味ですけど、肉、味噌、生姜、ニンニク、砂糖、みりん、酒が入ってて、ハッキリ言って旨味の塊! 美味しくないはずがありません!(作中では走馬はニンニクの匂いを気にして入れてませんでした)

もう一品、春馬の洋風なものが食べたいという希望で走馬が作ったのがこちら↓  ジャガイモとベーコンのトマトクリーム煮込みです。

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他にもいろいろ美味そうなものが出てくるので、寝る前に読むのはかなり危険な小説です! お気をつけください( ̄▽ ̄)


4・作品の見どころ3…様々な「隠し味」で何度も読める工夫がいっぱい!

『タスキメシ』は高い評価を得て続編も作られました。私は読了後に「あぁ、面白かった!」という子供感想文のような思いを持ちつつ、「他の作品にない読み味もある」とも感じました。

その後、何度か読み返して、『タスキメシ』の特殊性はいくつかの隠し味で成り立っていると分析しました。以下で書き出してみます。

隠し味1・独特の視点構造

・三人称で書きながらもパートごとに特定人物の視点を重視している

・複数一人称で意図して視点をズラす小説は多いが、本作は三人称ながら擬似一人称とも言える描き方で不思議な読み味を出している。

隠し味2・クライマックスの後にさりげなく物語感が変わるタネ明かしが連発される不思議構造

・展開上の大波がしっかり仕込まれていて後半大きく盛り上がる。

・大波の後、主要キャラが予想外の心情を語り、終了間際まで小波を連打する。

・そもそも誰も推理しない部分の事実認識を後半であっさり書き変えられ、脳が揺さぶられ続ける。

隠し味3・引っ掛かりを誘発する書き方で、自然に細かく読む仕組みがある!

・過去、現在の行き来がシームレスで「今どの時点の話をしてるの?」と引っ掛かる場面がある。

・都が男子言葉を使うため、誰のセリフか分からず繰り返し読んでしまう。

・上記の引っ掛かりを確認することで、時制の分かり難さをクリアさせたり、伏線をさりげなく強調している。

・著者の同時期の作品では本作ほど引っ掛かりがないので、重要なポイントを強調するために意図して違和感を作っていると思われる。


私が読み取れた隠し味は以上です。

上のような隠し味は、小技が多すぎ!とニガテがられることもあるでしょう。

しかし、スポーツを背景とする青春群像劇は無数にある中で、本作は展開の妙と小技の応酬、キャラの細かい心情描写で最後まで飽きさせない工夫がてんこ盛りです。上のような演出は独自の読み味を出すことに貢献していると私は思います。

また、主要キャラの落ち着きどころを最後まで明確にせず、これでもかと展開を揺さぶり続けることも、本作ならではの魅力です。

後半小難しい話が多くなりましたが💦 スポーツ青春モノとして気楽に読んでも面白いし、私のようにチマチマ細かく読みたくなる人なら何度も読み返せる良さがあります。

額賀 澪『タスキメシ』、ぜひ手に取ってみてくださいね♫

入れるところがなくなったので、最後になりましたが💦ネタバレ全開相関図を置いておきます。

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