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殺し屋に会ってきた時の話

昔、私がまだ20歳くらいの頃、まだ携帯電話が当時無くてあらゆる電話ボックスにはピンクチラシといういかがわしいチラシが電話ボックス一面に貼られていました。
高円寺の電話ボックスにて電話を済ませた私がふと見ると
そのチラシの中に紛れて
「あなたの怨み、あなたに代わって晴らします」という名刺が貼ってあって裏を見ると
「現代版必殺仕置人」と書いてありました。
おぉ、これは殺し屋だと思った私はその名刺をポケットに入れました
誰かを殺してやろうとか思っていたのではありません
そんな珍しい職業の人間に興味があったのです
当時、私はジーザスという漫画にハマっていて
主人公は稀代の殺し屋でその主人公ジーザスが巨悪の組織に立ち向かうという物語でした
ですから思う訳です、「現代版必殺仕置人、どんな人なんだろ」と
当時、無知な私でも流石に漫画と同じだとは思ってませんでしたが、どうしても好奇心が抑えられず殺したい上司がいるとか適当な事を言って会いに行きました
携帯電話は当時無かったと先程言いましたが、自動車電話という移動端末はその時からあって殺し屋はそれを使っていました
待ち合わせは八王子駅丸井の前でした
待ち合わせ時刻は確か15時00分だったと思います
しかしそんな物騒な人と待ち合わせとなると10分以上前に普通に到着するのも恐い、なので三分前くらいに到着しました
そして時刻になっても現れないので丸井の前にある公衆電話から殺し屋の自動車電話に電話すると「もう遅いんで出ちゃいましたよー、今から走って駅に向かい横浜線の淵野辺で降りて下さい、16時には着くはずです」
と言われ指示に従い、走って横浜線に乗りました
すると淵野辺駅に着いたのが、なんと15時57分!
時間ぴったりに着いたのです
そして淵野辺駅の階段を降りると、ある程度服装などの私の特徴は予め言っていたのですが、駅の中の人混みの中、私を見つけグッッと私の腕を、何の躊躇も無く、引っ張りました
その人が現代版必殺仕置人でした
その時私は、ようやく直感しました
八王子駅での待ち合わせ、遅いんでもう出ちゃいましたと言ってましたがあそこで私の姿を確認していたんだなと
随分慎重な会い方をするんだなとその時点で恐くなりました
殺し屋の風貌はスーツにノーネクタイ、肩にかかるくらいの黒髪の長髪の40代くらいだったと思います、パッと見 普通じゃない感じでした
淵野辺駅から徒歩で5分くらいの場所の喫茶店に連れてゆかれそこで話をする事になりました
で、席に座り話を始めるのですがそこでいきなり話は躓きます
殺し屋の第一声は「では、ターゲットの写真を見せて下さい」というものでした
私は本当に依頼をしたいのではなく、一人何万で殺すのかなーとか単なる冷やかしである為ターゲットの写真を持ってくるという発想が無かったのです
(あぁそうだ、本当に殺してやろうと思って依頼に来る人間はこういう時言われなくても写真持ってくるものだよな)
と妙に納得した後、「写真はもってません」と伝えました
「じゃダメじゃないですか」と言われなんとも言えない空気になり、それを打破する為、質問をしました
「一人幾らで殺してくれるんですか?」と
すると殺し屋が急にニマーーと笑いながら
「ご予算は、いかほどで?」と言いました
とても嫌な感じの、満面の笑みです
私は事前に殺し屋と会ったらこう言われたらこう返そうとか色々頭の中でシュミレーションしてたのですがここに来て、まさかの質問を質問で返されるという状態に困惑し、パニックになり思わず本当の事を
「2~3万ならすぐ出せるんですけど」と言ってしまい
すると当然ですが殺し屋は豹変し、怒涛の勢いで
「あんたねぇ!!探偵でも尾行するのに一日10万するんですよ!!」と私はめちゃくちゃ怒られました
金にならないと思った途端殺し屋の態度は豹変しました、というよりも金が無いのに殺し屋に会いにゆく私を短気起こして殺されないで本当に良かったと今は思います
しかし私はその時、咄嗟に「そんなにお金のかかるものなんですかー」と何も知らない振りをし
改めてそこで殺しは一人幾らなのかと再び聞くと
殺し屋はもう金をならないと思って投げやりに
「殺しは一人200万」と吐き捨てるように言い
「それは高いですねー、では半殺しは幾らですか」と聞くと
「半殺しは20万」とこれまた投げやりに言いました
それにしても半殺し20万、急に安い!
殺し屋は続けて「でも我々の闇討ちっていうのは夜じゃくて朝やるんです、夜は人通りが少ないけど目に留まる、朝は人通りが多いけど皆忙しくしてるから目に止まらない、だからターゲットの通勤ルートを教えてください、それと写真も忘れないでください!!」
と強く念を押されさらに
「いいですか?いざとなったら共犯ですからね」とも念を押されました何回も
その時私が思っていた事は
早くこの場を去りたい、それだけでした
そして疑心暗鬼になった私は凄く遠回りをして家路につきました
あの人にとって人を殺すっていうのはなんて事ない日常の中の出来事のよう
そして同年代の人達にこの話をすると
現代版必殺仕置人、おれもその名刺見た!
という人がたまにいました
割と有名な殺し屋だったみたいです
帰り際、殺し屋は「今度九州ででかい仕事がある」としきりに言っていました
長生き出来ないんだろうなと思いました
兎にも角にもあの頃の私の謎の行動力はなんだったんでしょうね、そんな事、普通しない。

結論:良いものを見れば悪いものもわかる
しかし悪いものを見ても良いものは分からない!
その逆は成り立たないのです

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