僕①

あの日電車の中で初めて会った時のこと
塵一つ寄せつけないほどの厳かさで君は春琴抄を読んでいた
背表紙を清冽に飾るその3文字が瞬く間に特別な意味を持った
やがて君と春琴が僕を支配した
谷崎の世界を知って君の言葉を夢想した
寝ても覚めても退廃の色香がまとわりついてくる
世界が色褪せて輪郭を滲ませていくのも悪くない

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