手越祐也さんの会見を見て泣いていた
手越祐也さんが、ジャニーズ事務所退所騒動の真相や今後について初めて会見で語った。
20時、会見が始まった。
髪の色はおなじみの金。しっかりセットされた髪、いつも通りバッチリ決まったメイク。黒いスーツに金髪が映える。ぱっと見完全にチャラ男だ。
……大丈夫か?
開始早々、YouTubeで中継を見ていた僕は思った。
どう見てもホストだ…ホストにしか見えない…
ものすごく堂々と胸を張っているし、表情は凛々しいし、金髪だし、顎は上がっているし、自信のみなぎる口角は常に上を向いているし、金髪だし、どうやら敬語をしっかり使い切る気もない、そういう方針のようだ。
何よりイケメンだ…真面目な会見でイケメンはまずい…
もう喋り方からなにから、体中から軽薄な感じが漂ってしまっている…
これはまずい…何も知らない人が見たら確実に「こいつふざけてるな」と思われそうだ…そんな態度で15分が過ぎた。
時折笑い声をこぼしながら、今回の経緯を説明していく手越さん。
手越さん…笑うのはやめたほうがいいよ…誤解されてしまうよ…
ふと、中学の国語の先生が言っていたアドバイスを思い出した。
「文章の最後の音を強く発音してしまうと、子どもっぽい印象を与えてしまうことが多いから、みんなの前で話すときは気をつけようね」
つまりあれだ。マックで話している女子高生をイメージしてもらえればいい。
A「今日マジ最悪なんですけドォォォォォーー!!!」
B「エッなにィ?なんかあったのォ〜????⤴⤴」
A「いやマジ話すのも嫌なんだけどォ〜〜!!!」
B「エーそんなんマジ卍ィ〜教えてよォ〜⤴⤴⤴⤴」
A「あのねェ〜⤴今日ねェ〜⤴⤴朝起きたらねェ〜??」
B「ぅんぅん起きたらァァ〜???」
A「曇りだったのォーーー!!!マジ最悪〜〜!!天気予報で晴れだって言ってたのにさァ〜ァァァア〜〜〜!!!⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴」
B「エッ、エェ〜〜〜!!⤴⤴⤴!??!?!信じられなァァ〜〜〜〜ァい!!⤴☆%&&%¥\(@_@)⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴」
僕は君らのテンションが信じられない。
ともかく、そういうことだ。語尾の強さでは間違いなくマックのJKがギネス記録だが、多かれ少なかれこういった傾向は日本人、特に関東圏の口調に多いと国語の先生は言っていた。
手越さんの口調からはそんな傾向が見て取れた。
「〜ですけど!」「〜それで!」「〜なので!」
最後。最後が強い。
「喋り方がガキ」「小学生かよ」
開始当初は様子を見ていた視聴者たちのコメントも、一方的な非難の様相を呈してきた。
「話長い」「もっとちゃんと話せないのか」「クズ」
開始30分、もはやコメントの9割以上は手越さんを非難する厳しい声で埋め尽くされている。
しかし僕はというと、そんな手越さんを見守っていた。
というか、勇気づけられていた。
なぜかというと、手越さんの現状と自分の置かれている状況に、少しだけ重なるところがあったからだ。
僕は現在、新人漫画家として生活している。
ネームを書き、ボツを出され、また新しいネームを書き、原稿を仕上げ、またネームを書き、その繰り返しだ。
大手出版社に持ち込んでいる新人作家は大抵、いくつかの漫画賞をとったあと、プロ作家のアシスタントに入り、そこで数年技術を磨き読切でデビューしたのち、自分の連載の準備に入る。
僕は今、連載準備の段階にいる。
準備といっても連載が決定しているわけではなく、企画を出して、OKが出なければまた新作を描いて出す、その繰り返し。
そしておそらく、新人漫画家、というか「商業漫画家を目指す全ての人間」の99%は、この連載準備までのどこかの段階で挫折する。
就職する、実家に帰る、心を壊すなど色々パターンはあるが、ほぼ全員がここまでで脱落する。
雑誌連載というのはそのくらい高い壁だ。
僕はその壁の一歩手前までは来ることができた。
しかしつまり、ここが最後の分かれ目で、ここを突破できる者はプロ漫画家のスタートラインに立てるが、できなければ辞めるだけ。
よりリアルに、自分が漫画家になれるかどうか、毎日試されている気分になる。
正直言ってこれだけでもものすごいプレッシャーなのだが、先日、これに加えて辛い出来事があった。
詳しく言うことはできないが、今までの自分の全てを否定されるというか、これからの全ての道が閉ざされてしまうような、そんな出来事があった。人生で一番辛い日だった。
世界の全てに見放された気分というか、どん底を味わった。
落ち込んで何もできず、何も食べられず、もう死んでしまおうかと一日中考えていた。
そんな状況の中、手越さんの今回の騒動だった。
規模こそまるで違うが、今まで積み重ねてきたものの大半を失ったという点では、つまりどん底にいるという点では同じだと思った。
手越さんは今、絶望にうちひしがれているに違いない、そんな中、会見でどんな言葉を話すのだろう…?
そう思って見ていた会見だった。
手越さんは終始、堂々としていた。
ハキハキと喋り、まっすぐ相手を見つめ、笑いを交え、自分の思いをしっかりと話していく。
「へらへら笑うなよ」「もうダメだこの人」「早く終われバカ」
コメント欄は荒れに荒れている。批判と応援が8:2といったところだろうか。
視聴者の批判は正直、わかる。数分会見を見れば、おそらくこの会見で手越さんは炎上するのだろうということは想像がつく。そういう会見だ。
が、僕は手越さんに勇気づけられていた。
この人はどこまでポジティブなんだろうか、と。
僕は今とても辛い時期を味わっているけれども、スケールや取り返しのつかなさを考えると、手越さんとは比較にならないくらいの開きがある。
計り知れないほどの苦境に立たされているはずなのに、手越さんの見せる表情には、全く曇りがない。堂々と話し、堂々と笑う、その姿に、僕は勇気づけられていた。
会見は記者を交えての質疑応答に入る。
「社長や滝沢さんと一度も会わずに退所することについてどう思うか」との質問に、
「ショックなところはあります。でも育ててもらったことに変わりはなく、感謝しているので、お会いする機会があるならばお礼を言いたいです」
そんな風にまっすぐ答える手越さん。
その後も質問が続く。
50分が過ぎ、60分が過ぎた。
ふとあることに気づく。
徐々にではあるが、批判のコメントが減り始めている。
「手越は本当に手越なんだな」「なんかもう応援したくなってきた」
そんなコメントが増え始めた。
質疑応答の中、手越さんが思いきり噛んだ場面があった。
「今月末」を「今月ましゅ」と噛んだのだ。
「あっはっはっは!すみませんかわいい噛み方して」
と手越さんが大笑いし、フォローを入れると、コメント欄は笑いに包まれた。
応援コメントが増えていく。
質疑応答を終え、視聴者からの質問に答えていく時間が設けられた。手越さんがリアルタイムで視聴者の質問を見つけて答えていく中で、よりによって手越さんがチョイスした質問は、
「どうしたら手越ガールズに入れますか」
というものだった。
「どこかで運命が交わったらよろしくお願いします!」
手越さんが笑顔でそう答えると、現場は笑いに包まれた。
コメント欄にも笑いが巻き起こっている。
僕は泣いていた。
何が起こっているんだ。
なぜこの人はこんな大変な状況で、こんな陽気に笑い、堂々としていられるのだろうか。
なぜこんなにも、元気でいられるのだろうか。
「俺は全力でいくよ!君はどうなの?」
そう言われているような気がした。
後から知ったことだが、手越さんは以前、
「落ち込むのは時間のムダだって思ってるから、一人で悲しみに暮れるぐらいなら無理してでも友達と会って騒ぐ。そうすれば、自然とポジティヴになっていくから」
そう語っていたそうだ。
いつの間にか、手越さんから元気をもらっている自分がいた。
僕は手越祐也さんのファンになった。
出会えた人に元気を与える。
正真正銘、本物のアイドルだった。
会見の最後、手越さんは記者からの要求に答え、おなじみの「テイッ!」で会見を締めた。
「応援する」「頑張れよ」「好きになった」
コメント欄は応援でいっぱいになっていた。
僕は泣きながら笑っていた。
ポジティブというのはこういうことなのか。
そうか、自分も楽しんで、頑張らないと。
そう、思った。
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